―陽向屋―

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総「それでは、また」 ゆ「…はい」 総「クス…大丈夫ですよ。また会えるんですから」 あれから、二人は甘味処や小間物屋、鍛冶屋などをまわって、昼前に陽向屋に向かった。 裏口の前で、ゆきこは総司と話していた。 ゆ「…では…」 総「はい」 総司はゆきこの頭をポンポンと叩いてから帰っていった。ゆきこは総司が見えなくなるまでずっと見ていた。 総司が見えなくなったところで裏口の戸を開けて、中に入った。 中に入ると、久しぶりの菖蒲さんの後ろ姿が目に入った。賑やかな店内、程よい甘い甘味の匂い。 ゆ「…菖蒲さん」 振り返った菖蒲さんは、驚いたように目をいっぱいに見開いて、次いで嬉しそうに微笑んだ。 菖「ゆきこちゃん!大丈夫?」 菖蒲は持っていた包丁を置いて、ゆきこに駆け寄った。そして、そっと抱き締めた。 菖「お帰りなさい。傷は平気?」 ゆ「はい。大丈夫です」 着物から香ってくる甘味の甘い匂い。新選組は大切な居場所だった。だけど此処も私にとっては大切な居場所。 ゆ「よしっ!大分、長いお休みを貰っちゃったんで、早速働きます!」 菖「大丈夫?」 ゆ「はい!」 菖「助かるわ!じゃあお願いしゃうね?」 ゆきこは元気に頷いてから、厨房から出た。厨房から出ると、久しぶりの雰囲気。 「おっ!?ゆきこちゃんかい?」 ゆ「叔父さん!!」 初めて陽向屋に来たときの、お客様。優しくて面白い、馴染みの叔父さん。 叔父さんの言葉に、空が振り返った。空も菖蒲のように目を見開いてゆきこに駆け寄った。 空「ゆきこ!!大丈夫なの!?」 ゆ「うん。大丈夫だよ。結構、お休み貰っちゃってごめんね?」 空「いいの!!私のせいなんだから!…お帰りなさい、ゆきこ」 ゆ「ただいま」 二人は本当の姉妹のように笑い合った。空の笑顔は、まるで向日葵のように明るかった。 ずっと、自分を責めていた。ゆきこが怪我をしたのは自分のせい…あの時の、ゆきこの脇腹から出てくる真っ赤な血。自分の手も、着物も、ゆきこの血で染まっていく… こんなに沢山の血を初めて見た。まるで悪い夢を見ているようだった。 でも、またこの子が帰ってきてくれた、笑ってくれたから… .
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