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ゆきこの居ない間、笑っていても何をしていても心の奥底に何か言いようのないモノが溜まっていた。大丈夫、大丈夫…何度も自分に言い聞かせた。
ゆ「…ら、…そ…ら…空!」
空「ハッ…!な、なに?」
ゆ「もう…どうしたの?」
いつの間にか、ボー…としていたみたいだ。ゆきこは心配そうに空を見ていた。
…どうして、この子はこんなに優しいんだろう…?
ゆ「どーしたの?大丈夫?」
空「うん。平気だよ」
「おーい空ちゃーん!お汁粉一つ」
大丈夫。この暖かい空間に居れるなら、まだ平気。悲しいことなんて何もない。
空。そう名付けてくれた美しい花の名を持つ女性と、初めて出来た、儚さと不思議な雰囲気をもつ友達、そしてこの暖かい幸せな空間に居れることが私の幸せだから。
空「はーい!ただいまー」
ゆ「…」
菖「…」
無言で見つめてくる二人に、空は穴があったら入りたいと切に願った。この二人、怖すぎる。今すぐにでも自分で穴を掘って入りたいと本気で思った。
菖「空…あなた、この仕事何年目?」
空「……」
菖「知ってる?このお店、食器を壊すためのお店じゃないって?」
空「降参です…菖蒲さん、もうやめて下さい…」
二人の様子を見守っていたゆきこは苦笑いで夕餉を持ってきた。
あれから空は、見事に食器を割りまくった。いつも二、三枚は割っている空だが、今日はいつにも増して派手に割った。
菖「まぁ、空らしいわね」
空「ごめんなさい…」
菖「いーのよ。それより、ゆきこちゃんがせっかく作ってくれたんだから、冷めないうちに食べちゃいましょう?」
二人の前には、ゆきこが作った夕餉が並んでいた。日頃から、料理好きなゆきこはなるべく節約して美味しい料理を作って菖蒲達を驚かしている。
菖「ねぇ、ゆきこちゃん」
ゆ「はい?」
菖「ゆきこちゃん、たまには厨房に入ってみない?」
その言葉に、ゆきこと空は顔を見合わせた。ゆきこはポロッと煮豆を落とした。空は箸を置いて喜んだ。
空「いいじゃん!ゆきこの料理美味しいから、きっと大丈夫だよ!」
ゆ「…私が…いいんですか?」
少し不安そうに聞くと、菖蒲はもちろん…というように笑った。ゆきこはそれを見て、嬉しそうにでも力強く頷いた。
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