―空と光陽―

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黎くんがちーくんにべーっとすると、ちーくんが拗ねたようにふんっ、と顔を背けた。 「まぁまぁ、二人とも…」 光陽は、慣れたように二人を宥めた。美代ちゃんが光陽の手を引いて抱き付いた。 「光陽ちゃんは、私のだもん!二人には渡さないから!」 その言葉に、二人はバッ!…と、光陽たちの光景を見て少し落ち込んだようにうなだれた。 こんな幸せな日々が、ずっと続くとあの時の私はまだ、信じていた。崩壊の闇がもう、直ぐ後ろまで、振り返れば目の前まで迫っていると知らなかった。 「じゃあねー!」 夕暮れ時、子供たちは解散した。黎と光陽は家が隣のため、一緒に帰ることになった。 「じゃあね。また明日!」 「うん!バイバイ」 こんな何気ない約束が、もう叶うことがないなんて私はまだ知らなかった。いつも匂ってくる、母が作る夕餉の匂いが香ってこないことに気付かなかった。 黎くんと別れて、家の戸を開けた。何時も帰ってくると一番最後に目に入る、母の後ろ姿がない。 違和感を感じた光陽は母がいる部屋に向かった。 「お母様?」 部屋を覗くと、母はまだ寝ていた。静かに近寄ると、母はぼうっと目を開けた。 「お母様…?大丈夫?」 「光陽…?」 焦点の合わない目が光陽を捉えると、母は勢いよく起き上がった。いつもの母と違う様子に光陽は戸惑った。 「光陽!」 「はっはい」 母は、光陽を抱き上げた。いつも寝たきりの弱々しい母とは全然違う様子に光陽は戸惑いながら母を見つめた。 押し入れを開けた母は、そこに光陽をおろした。 「いい、光陽?」 「なにが?」 「絶対、何があっても此処から出てはなりません」 母の真剣な表情に、光陽はコクリと頷いた。それを見た母は微笑んで、光陽を抱き締めた。 「いい子ね…できることなら、ずっとあなたを見守っていたかったわ…」 母の、病でやせ細った体。いつも良い匂いがした着物。大好きな母の暖かい手。 どうしてだろう?なんでこんなに不安なんだろう?どうして…?でも、不安でたまらない… そっと離された体。母は悲しそうに微笑んでいた。そして、暖かい温もりが消えて視界が真っ暗になった。 「やっ…お母様!?」 「光陽。絶対に出て来てはなりませんよ?約束を守って下さいね?」 その言葉に光陽は静かになった。そして母の気配が遠ざかっていくのを感じた。光陽は膝を抱えてうずくまった。 .
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