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暫くすると、殴りつける音が消えた。ゆっくり目を開けて様子を窺った。そこにはぐったりと父の下でぐったりとしている母の姿があった。
「ぉ、かッ…!」
思わず叫びそうになった時、母がこちらを見た気がしてハッ!と口を閉ざした。
父は気づいていないようだった。
お母様…お母様…
大好きなお母様。
その笑顔が、その温かい手が、大好きでずっと一緒だって信じて疑わなかった。
光陽。
転んで膝に傷が出来たときも、失敗したしょっぱいお団子も、迷子になって泣いていたときも、木の上から降りれなくなったときも、いつもお母様はいつも笑って慰めてくれた。
光陽大丈夫よ。笑っていなさい。私の大切な宝物。名前のとおり、光のように陽のように温かい笑顔で誰かを包み込んであげれるような優しい子になりなさい。いつもそう言って笑っていた。
お父様。お父様に頭を撫でてもらったのが一番最初の記憶。大好きだった、大きな手、優しい笑顔、いつもお母様と一緒に笑っていた。
お父様。いつの間にか笑顔が無くなっていた。お父様を見ても恐怖しかわかなかった。
誰でもいい。お母様を助けて…お父様を止めて…このままじゃ、二人とも、大好きな二人が消えていっちゃう…!
何も出来ない自分が悔しいッ…やっぱり!そう思って立ち上がろとした瞬間、
「悪い…早苗」
え?お父様…?
一瞬だけ昔のお父様の声が聞こえた気がした。襖の隙間からお父様が包丁を振り上げたのを見た…
「――――!」
声を上げたつもりだった。でもそれは声にならなかった。
振り上げた包丁はそのまま倒れている母に突き刺さった。
…何かが終わった気がした…
違う。何か中途半端なものが終わりを迎えた。そんな感じがした…
思わず、襖を開けて母のもとに駆け寄った。
だが、途中で足が止まった。
父が今度は自分の腹に包丁を突き刺した。
「お母様!お父様!」
その声に、やっと父は光陽に気が付いた。目を見開いてからそのまま倒れた。光陽は母の隣に倒れた父に駆け寄った。
「お父様!」
「光、陽か…みて、いたのか…?」
「どうして?どうしてお母様を…!」
「すまな、い…な…ごめんな…」
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