―吉田稔麿―

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コト…、小さな音が聞こえた気がして、目を開けた。目の前には空の寝顔があった。辺りを見ると太陽が昇り始めた時間らしかった。 上体だけ起き上がり髪をとかして立ち上がった。 空はまだ眠っていたのでとりあえず着替えてから部屋を出た。 階段を下りていくと、トントンという聞き慣れた包丁の音と、コトコトという煮込む音、甘い匂いが漂っていた。 ゆ「…おはようございます」 ゆきこが声を掛けると、菖蒲は振り返って笑った。その笑みは空にそっくりだった。 菖「おはよう。ゆきこちゃん!」 菖「あれ?そういえば空は?」 ゆ「えと…まだ眠っています」 持っていた包丁を置いて、苦笑いで答えた。もうそろそろ開店のため、準備が忙しくなってきていた。だが、空は一向に起きて来なかった。 菖「もう…しょうがないわねぇ…ごめんねゆきこちゃん、ちょっと待ってて?」 ゆ「はい」 菖蒲は空を起こすために厨房から出て行った。久しぶりの陽向屋はやっぱり暖かかった。 空「いったぁ…」 ゆ「大丈夫?」 あれから、菖蒲が起こしに行ったあと空は頭をさすりながら起きてきた。 昼時の今はちょうど混んでいる時間だった。ゆきこと空は忙しく動き回っていた。 「――――。」 ゆ「え?」 この話し方は…大分分かりづらいけど、あの訛りは…どこに居るんだろう…こんなに人が多いと、分からない… 空「あ!吉田様!」 ふと、横を空が掛けて行った。そのままある一人の男性の所まで行った あの人は…? 空はこっちを向いてゆきこに手招きした。 空「ゆきこ!ちょっと来て!」 言われた通りに二人に近寄って行った。空は嬉しそうに男性を紹介した。 空「この方は吉田様。最近、陽向屋をご贔屓にして頂いているの!」 「よろしくね。初めましてかな?」 ゆ「…朱里 ゆきこといいます。よろしくお願いします…」 そう言って二人は握手をした。 この人だ… 吉田様…吉田…まさかね?どうしてだろう、笑っている筈なに目が笑ってない気がする…違う、表面上だけ笑っているんだ… ゆ「あの…」 「はい?」 ゆ「失礼ですが、下のお名前は…?」 吉田様は一瞬、目をパチクリしてから笑った。 「栄太郎といいます」 栄太郎… ゆ「あ、ありがとうございます…すいません、いきなり…」 「いえいえ…」 .
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