1416人が本棚に入れています
本棚に追加
コト…、小さな音が聞こえた気がして、目を開けた。目の前には空の寝顔があった。辺りを見ると太陽が昇り始めた時間らしかった。
上体だけ起き上がり髪をとかして立ち上がった。
空はまだ眠っていたのでとりあえず着替えてから部屋を出た。
階段を下りていくと、トントンという聞き慣れた包丁の音と、コトコトという煮込む音、甘い匂いが漂っていた。
ゆ「…おはようございます」
ゆきこが声を掛けると、菖蒲は振り返って笑った。その笑みは空にそっくりだった。
菖「おはよう。ゆきこちゃん!」
菖「あれ?そういえば空は?」
ゆ「えと…まだ眠っています」
持っていた包丁を置いて、苦笑いで答えた。もうそろそろ開店のため、準備が忙しくなってきていた。だが、空は一向に起きて来なかった。
菖「もう…しょうがないわねぇ…ごめんねゆきこちゃん、ちょっと待ってて?」
ゆ「はい」
菖蒲は空を起こすために厨房から出て行った。久しぶりの陽向屋はやっぱり暖かかった。
空「いったぁ…」
ゆ「大丈夫?」
あれから、菖蒲が起こしに行ったあと空は頭をさすりながら起きてきた。
昼時の今はちょうど混んでいる時間だった。ゆきこと空は忙しく動き回っていた。
「――――。」
ゆ「え?」
この話し方は…大分分かりづらいけど、あの訛りは…どこに居るんだろう…こんなに人が多いと、分からない…
空「あ!吉田様!」
ふと、横を空が掛けて行った。そのままある一人の男性の所まで行った
あの人は…?
空はこっちを向いてゆきこに手招きした。
空「ゆきこ!ちょっと来て!」
言われた通りに二人に近寄って行った。空は嬉しそうに男性を紹介した。
空「この方は吉田様。最近、陽向屋をご贔屓にして頂いているの!」
「よろしくね。初めましてかな?」
ゆ「…朱里 ゆきこといいます。よろしくお願いします…」
そう言って二人は握手をした。
この人だ…
吉田様…吉田…まさかね?どうしてだろう、笑っている筈なに目が笑ってない気がする…違う、表面上だけ笑っているんだ…
ゆ「あの…」
「はい?」
ゆ「失礼ですが、下のお名前は…?」
吉田様は一瞬、目をパチクリしてから笑った。
「栄太郎といいます」
栄太郎…
ゆ「あ、ありがとうございます…すいません、いきなり…」
「いえいえ…」
.
最初のコメントを投稿しよう!