―吉田稔麿―

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ピチャ…という水の音と冷たい布が額に乗っかった。その心地よい冷たさにそっと目を開けた。 汗で着物が張り付いて気持ち悪かった。見れば、自分の部屋だった。そして、寝ている布団のすぐ横には総司さんが心配そうに私を見ていた。 総「大丈夫ですか?」 ゆ「…は、ぃ…あの…わ、たし…」 総「倒れたんですよ?全く…あれほど無茶しないで下さいと言ったのに…」 ゆ「すい、ません…」 喋ると、喉が引きつるように痛んだ。 倒れちゃったんだ、迷惑掛けちゃった…でも、なんで総司さんが…? ゆ「なんで…総司さんが…?」 総「空さん達が休むわけにはいかせないでしょう。私は午後からは休みだったので引き受けたのです」 ゆ「ぁ…ごめんなさい…」 この人にも迷惑架けちゃった… …ケホッケホッ 久しぶりに風邪なんかひいたなぁ… 総司はゆきこが苦しそうに咳をしているのを見て、上体だけ起き上がらせ背中をさすった。 咳がおさまるのを見ると羽織りを羽織らせて水を差し出した。 だが、力のない手は上手く茶器を掴むことが出来ない。総司は茶器を持ったまま空いた方の手で背中を支えた。 そのまま、茶器をゆきこの口に近づけて傾けた。 それをゆきこはゆっくりと飲み込んだ。 だが、 ゆ「ケホッケホッ!」 いきなり飲み込んだ水をゆきこの身体は拒絶した。総司は慌ててゆきこの背中をさすった。 ゆ「す、すいま…せん…」 総「大丈夫ですから。ゆっくり…」 もう一度、ゆっくり口に茶器をつけて傾けた。今度はさっきよりもゆっくりと喉を嚥下した。 ゆ「ありがとうございます…」 総「ほら…早く横になりなさい」 ゆきこは総司の手を借りて横になった。 総司はゆきこの髪を撫でてから、桶を持って立ち上がった。 総「待っていて下さい。水をかえてきます」 そう言って踵を返した総司の着物の裾をゆきこは思わず握っていた。 ハッ!と、して着物の裾を放したゆきこに総司は微笑んでからまた屈んで桶を置いた。 総「大丈夫です。すぐに帰ってきますから」 おでこをくっつけ合わせて総司は笑った。 総司が出て行った部屋は何故か寂しがった。 .
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