―吉田稔麿―

8/17
前へ
/592ページ
次へ
総司が居なくなった部屋は何故だかとても寂しかった。 水を換えてくるだけ…すぐに戻ってくる… そう自分に言い聞かせても寂しいという感情は消えなかった。 きっと、熱のせいだ… 大丈夫…もう、甘えちゃいけないって分かったから。甘えていいわけない… 総司さん達を欺いているのに… 本当はもう気付いてる、空が吉田様を慕っていることくらい… 自分が総司さんに甘える権利なんてない… 分かっているのに…寂しいくて、甘えたくて仕方がない… 私…こんなに総司さんに頼ってたんだ… ゆ「さみ、しい」 口に出してしまえば、その感情はもっと膨らんだ。 一人は嫌なの… 熱で上手く回らない頭は、上手く感情をコントロールしてくれない。 いつもは大丈夫なのに… ゆ「…ふぇ…っ…さ、みし…」 いくら拭っても、涙はとめどなく溢れてくる。 ゆきこが子供のように泣いて、涙で枕を濡らしていると、 スッと襖が開いて総司が水を換えて戻ってきた。 泣いているゆきこを見て、桶をその場に置いて駆け寄った。 総「どうしたんですか!?どこか痛みますか!?」 ゆ「ふ…ぇ…ちが、ます…何でも…ない、です…」 総「何でもないわけないでしょう…」 未だに顔をうずめているゆきこの背に腕を回して上体を起き上がらせた。 それでも顔を背けるゆきこを、そっと抱き締めた。 総「どうしたんですか?」 ゆ「……」 何も言わないゆきこに静かに待つ。 いつもより遥かに熱い身体は、どれだけ無理を重ねていたかを示していた。 最近、忙しくちゃんとゆきこの様子を見ていなかった自分に嫌気がさす。 ゆ「……寂しかったんです…」 総「…はい」 ゆ「…どうしてか分からないんですが、苦しくて苦しくて…」 この腕の中は心地よくて、この人はどうしてこんなにも暖かいんだろう…? 顔を上げて総司の顔を見れば、大好きな笑みを浮かべていた。 総「すいません…寂しかったですよね?」 ゆ「総司さんが謝ることじゃないですよ…」 総「大丈夫です…眠るまで傍にいますから…」 そう言って、ゆきこを横にして、額に乗っかっていた布を取り替えた。そのままゆきこの頬に手を当てるとゆきこは気持ち良さそうに目を細めた。 .
/592ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1416人が本棚に入れています
本棚に追加