―吉田稔麿―

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そんな女性らしい色気を出したゆきこに総司は苦笑いを零した。熱を出して苦しんでいる少女にこんな事を今、思ってしまうなんて… 総「はい、出来ましたよ」 ゆ「ありがとうございます!」 ゆきこは浴衣の襟元を手繰り寄せてもとに戻して振り返った。総司の表情を見たゆきこは首を傾げた。 ゆ「総司さん…?」 総「はい?」 ゆ「どうしたんですか?」 そう聞くと、総司はごまかすかのように、困ったように笑った。 だが、いつものように髪を撫でられれば、何も言えなくなる。 総「ほら、もう寝なさい?」 ゆ「…はーい」 差し出された手を借りて横になれば、そのまま手を握られた。不思議そうに見上げれば、 総「寝るまで、手を握っていると言ったでしょう?」 ゆ「でも…もうそろそろ帰らないと…」 総「大丈夫ですよ。あなたは安心して眠りなさい」 ゆ「は、い…」 とろとろと瞳は閉じていく、まるで総司の言葉は魔法の呪文のようだった。それは自分がどれだけ彼を信頼しているかの印。 いつにない安心感と久しぶりに感じる心地よさを感じて、ゆきこは瞳を閉じた。 眠ったゆきこの額に手をあてると、先程よりも絶対に上がっていた。額に乗っている取り替えたばかりの布を取り替えようとした。が、 総「……」 繋がっている小さな手を見た。すがりつくように握っている手。ゆきこは無意識かもしれないが、ゆきこはよく何かすがるように抱きついてきたりすることがある。 申し訳ないと思いながらも繋がれた手を放して、布をもう一度濡らして絞ってから額に乗せた。 懐から手拭いを取り出して、首筋や顔にかいた汗を拭った。 .
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