―吉田稔麿―

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待って下さい! 置いていかないで! 一人は嫌なの! 総司さん! 「総司さんっ!?」 え? キョロキョロと周りを見渡すと、もう明るくなりはじめていた。 胸に手を当てて、呼吸を整える。 身体中ぐっしょりと汗を掻いていた。 凄く嫌な夢を見ていた気がする。 真っ暗闇の中、一人きり、そして総司さんに置いていかれる夢。 ゆ「ゆ、め…」 嫌な夢… なんでこんな… はぁ…ため息をついたと同時に部屋の襖が開いた。 ゆ「そ、ら?」 空「ゆきこ、おはよ。熱は大丈夫?一応お粥作ってきたから」 布団の横に腰を下ろした空は、ゆきこに肩を貸して起き上がらせた。 自分の額と、ゆきこの額に手を当てて熱を確かめる。 やはり、まだゆきこの熱は下がって居なかった。だが、昨日よりは下がっていた。 空「ん~…まだ、寝てた方がいいかも…」 ゆ「でも…」 空「いいから。ほら、ちゃんとお粥食べてね?」 ゆ「うん。ありがとう」 空は、水を取り替えてから部屋を出た。ゆきこは昨日よりは大分楽になった身体でお粥を食べようとおさじを持ったとき、部屋の襖が開いた。 ゆ「っ!…吉田様!?」 「大丈夫?倒れたって聞いたけど?」 目を見開いて驚いているゆきこをよそに、稔麿は部屋にズカズカと入ってきた。 そのまま、布団の隣に胡座をかいて座ると、ゆきこが持っていたお粥の入ったお椀を取り上げた。 ゆ「あっ!…何するんですか?」 「ふふ…二人の時は稔麿って呼んでって言ったじゃん。敬語もなし」 ゆ「…稔麿。返して」 何故か吉田様…稔麿は、何故か私のことを気に入ったらしく二人きりのときは稔麿と呼ばせ、敬語をやめさせる。 ゆ「稔麿…」 稔「駄目だよゆきこ?無理しちゃ」 初めて会ったときの好青年ではなく、もう悪戯好きの青年のようだった。 というか、好青年だったのはあの瞬間だけだったが。 稔「食べさせてあげるよ」 ゆ「え…」 何故そうなった? 稔麿の思考回路を覗いてみたいと心底見てみたいと思ったゆきこだった。そんなゆきこに対して稔麿は笑顔でおさじを差し出していた。 ゆきこは諦めて口を開いて空が作ってくれた自分好みの味付けになっているお粥を食べた。 .
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