―吉田稔麿―

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日が暮れた頃、総司は隊士達を先に帰らせて陽向屋に向かった。 店はもう閉まっていて裏口に向かった。 コンコンと、戸を叩くと戸が開いて菖蒲が出て来た。 菖「あら沖田君。どうしたの?」 総「ゆきこに会わせてくれませんか?」 菖「いいわよ。さぁどうぞ」 中に入ると、空が後片付けをしていた。軽く会釈してゆきこの部屋に向かった。声を掛けてから襖を開けると… 部屋の襖がいきなり開かれた。そちらを見ると涙が一瞬止まった。だが、またすぐに涙が視界の邪魔をした。 ゆ「なっ…なんでぇ…?」 総「やっぱり…泣いていたんですね…」 総司は部屋に入ってゆきこを抱き締めた。ただ、何時ものようにゆきこは抱きついてはこなかった。 ゆ「だ…め…」 総「え?」 ゆ「駄っ目…です!離して…くだ、さい!」 総司から離れようと、ゆきこは小さな手で押し返そうとする。だが、総司は離そうとはしなかった。 総「何故ですか?」 ゆ「駄目…なんです…私なんかにっ…やさしく…しちゃ…だめっ」 駄目なんです…そう呟きながら、ゆきこは離れようとする。 なぜ、いきなりそんなことを言うのか?昨日まで普通だったのに… 駄目…頼っちゃだめ、甘えちゃだめ、この人の優しさに…もうこれ以上、頼るわけにはいかない… 私、いつからこんなに弱くなったんだろう…この時代に来るまで一人で頑張れたのに… ゆ「なん、で…総司さんはっ…わたしなんか、にっ…優し、くするん…ですか!?」 総「…大切だからです…あなたが、ゆきこが大切だからですよ?それ以外の理由なんて必要ないですから」 ゆ「だめ…です…私なんて…」 総「そんなに自分を責めないで下さい…」 下を向いたまま、顔を見ようとしないゆきこの顎を掬いそっと上を向かせた。 .
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