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稔「じゃあ、行こうか?」
ゆ「うん」
一回陽向屋に戻りたかったが不自然になるし、何より彼らにばれてしまうから。
そのまま手を握って稔麿の案内で宿屋まで向かった。
暫く歩いていくとある宿屋の前で足を止めた。正面から入ると思ったら、裏に回った。
ゆ「ねぇ…本当に良いの?」
稔「うん。大丈夫」
ゆきこは稔麿に手を引かれ宿屋の中に入った。
中を見回していると、奥から女将さんらしき人が出て来た。
「あら?吉田様お帰りなさい。…この方は?」
稔「ただいま。ゆきこっていって、今日から此処に泊まるからよろしくね?」
それだけ言うと、稔麿はゆきこの手を引いて階段を上がっていく。ゆきこは後ろを振り返ってぺこりとお辞儀をして着いていった。
稔麿はある部屋の前に着くと、声も掛けずに襖を開けた。
すると、部屋の中から怒声が響いた。
「おい!稔麿!声を掛けてから開けろっつってんだろ!?」
稔「はいはい。分かりました。それよりさ紹介したい子がいるんだ」
繋いだ手を引いて、ゆきこを自分の前に立たせた。
部屋の中にいた人は眉間に寄せている皺が随分、印象的だった。
だけど、ゆきこを見た瞬間目を見開いた。
「誰だよこの女」
稔「ゆきこ。今日から此処に住むことになったから。
この人は高杉 晋作怖いのは顔だけだから」
晋「んだとぉ!?」
晋作の怒声にも、稔麿はどこ吹く風でゆきこを後ろから抱き締めた。
困ったように両者を見やるゆきこに、晋作が話し掛けた。
晋「高杉 晋作だ。てめぇ、何者だ」
ゆ「え?…人間?」
そう答えると、後ろからぶふっ!と吹き出す声が聞こえて、前からは溜め息を吐くのが聞こえた。
何者って言われても…
全てを教えてもいいのかな?
ゆ「…信じてくれますか?」
晋「何がだよ…」
稔「とりあえず座ってもいい?」
晋「あぁ」
稔麿はゆきこを晋作の前に座らせて自分は窓側に座った。
ゆ「私の話しを信じるも信じないのも、全てあなた次第です。でも、私が話すことは全部本当のことです」
すぅっ…息を深く吸って晋作を真っ直ぐ見つめた。膝の上で手を握ってポツリポツリと話し始めた。
自分が、新選組にいたこと、陽向屋にいたこと、話せることは全部話した。
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