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ゆ「え、栄太郎。か、帰らない?」
焦りすぎてどもっているゆきこに、稔麿は笑顔でヤダと断った。やっぱり?とうなだれた。
稔「…ゆきっ」
名を呼ぼうとしたところでゆきこが慌てて口を塞いだ。
いきなり立ち上がったゆきこに総司達が視線を向けた。
冷や汗だらだらのゆきこは自分でも最低だと思う言い訳をいった。
ゆ「くっ口に付いてたっ!」
稔「ぶっふははは!!」
ゆ「……」
長い鬘が俯いたゆきこの顔を隠した。と、鬘が目に入ったときバッと稔麿を見た。ようやく自分が男装していると気付いた。
ゆ「栄太郎ぉ…」
稔「馬鹿だね雪斗」
は?という顔をしたゆきこに小声で、偽名だよ。と言えば納得したように頷いた。
稔「雪斗。キミ天然ってよく言われない?」
ゆ「言われます…すいませんでした」
自分が男装していたことも忘れて慌てていた自分が恥ずかしくなった。穴があったら潜りたい…じゃなかった入りたい…
稔「さて、お土産は決まった?」
ゆ「それより、あの人は何が好きなの?」
稔「殆ど食べれるんじゃない?牛だし…」
牛って…ゆきこが呆れてまたお品書きを見始めたのを見て、総司達をチラリと見た。
明らかにゆきこを疑っている。
まぁ、この子だし?ずっとゆきこを見ていた者なら分かるだろう。
ただ、鬘を被ってサラシを巻いて袴を履いただけだから。
総「すいません」
ゆ「…はい?」
きたっ!怪しまれると思っていたがまさか、話し掛けられると思っていなかった。少し声を低くして総司達の方を見れば明らかに怪しんでいた。
総「失礼ですがお名前は?」
ゆ「雪斗ですが…何か?」
一「お前に良く似た奴がいるからな、少し気になったんだ」
ゆ「この世には同じ顔の人が三人はいるといいますからね」
もう無理…
これ以上話していたらぼろが出る!もう一度助けを求めて稔麿を見れば、今度は仕方なさそうに立ち上がった。
稔「すいません。もう時間がないので失礼します」
そう言って、ゆきこの手を掴みお金を払って店を出た。
総司達の視線が痛くて仕方がなかった。
ゆ「絶対怪しまれた…」
稔「だろうね」
ゆ「はぁ…お土産買ってくんの忘れたし…」
いきなり手を掴まれて連れ出されたゆきこはお土産を買うのを忘れてしまったのだ。少し恨めしげに稔麿を見れば、髪を撫でられた。
てか、鬘蒸れる…
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