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ゆ「一つお聞きしてもいいですか?」
「はい。なんでございましょう?」
ゆ「このお仕事をしてて辛くはないのですか?」
本当に、珍しいお客様だこと…
此処に来る客は殆どが彼女たちの体を求めて来ている。そんな中で辛くないか?と聞いてくる人は初めてだ。
「そうですね…辛くないと言うと嘘になります…ですが、私たちは幼き頃に此処に売られた者たちばかりです。
此処は一度入ったら、使いものになるまで働かせられます。
ですが、あなた様のようにこんな私を心配して下さる御方と巡り会えた私は幸せかもしれません」
強いなぁ…と思う。
私なんかよりよっぽど、此処にいる人達はそこら辺にいる女人より心が強い。
皆、自分の心を持っている人が多い。
逃げたいと嘆くだけではなく戦っている。
ゆ「強いですね」
「フフ…ありがとう御座います」
ゆきこは杯をグイッと傾けてお酒を飲み干した。
喉が焼けるようにヒリヒリして痛い。
ゆ「コホッケホッ…喉が…」
「大丈夫ですか?」
ゆ「はい…ですが、少し厠に行ってきます」
「この部屋を出てすぐつきあたりで御座います」
一応、晋作に言ってから部屋を出た。
それにしても…
遊郭はこんな所だったのか…少し誤解していたのかも知れない…
ドン
ゆ「あ、すいませ…」
考えることに夢中になっていたゆきこは誰かとぶつかってしまった。上を向きながら謝っている途中で言葉が途切れた。
総「雪斗さん?」
ゆ「…っ!?」
総「雪斗さんですよね?偶然ですね!…って、待って下さいよ!?」
回れ右して引き返そうとしたが、腕を掴まれてしまった。仕方なく振り返ると総司が悲しそうな顔をしていた。
ゆ「っ…この間はお名前を聞くのを忘れていましたね…お名前は?」
総「沖田総司といいます」
ゆ「沖田さん。よろしくお願いします」
沖田さんって呼ぶのも久しぶり…
でも、この人は観察力がすごいから、あんまり一緒に居たらバレちゃうかな…?
早く戻らないと…
ゆ「それでは、これで失礼します」
軽く会釈して、総司の目の前を通り過ぎようとした…が、
…やっぱり?
腕を掴まれたので恐る恐る総司を見上げた。
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