―判らない心―

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はぁ、はぁ… 道場には土方の荒い息遣いの音だけが響いている。床に腰をおろして肩で息をしている土方とは反対に少しスッキリとした表情で総司も床に腰をおろした。 総「情けないですねぇ土方さん。煙管の吸いすぎじゃないですか?」 歳「うっせぇよ…ハァ…てめぇの動きに…ハァ…合わせんのが、どんだけ疲れるか…」 新選組でも一、二位を争う剣の使い手といわれ、天才とまで言われる総司は、隊士達に教えるのが大の苦手である。 手加減しなければならないし、弱いし、遅い。 さっきだって…少ーし練習に付き合ってもらっただけで、すぐにくたばっているし… 少し練習に付き合ってもらった。かなりの言い間違いである。総司は掛かってくる隊士達の急所や鳩尾を狙って一撃で仕留める。平隊士ならその一撃でダウン。 慣れてきた隊士なら少しは続くが、すぐに床とお友達になることになる。 歳「んで?…なんでそんな殺気立ってんのお前」 首筋の汗を拭きながら土方は起き上がって胡座をかいた。今、意識があるのは二人だけだが、総司は気に入らないらしく場所を移動することを提案した。 場所は… 歳「俺の部屋かよっ!?」 総「だって、あなたの部屋に近づきたがる人なんて居ないじゃないですか」 悪気もなく平然と言ってのけた総司に少しだけ心が切なくなった。 子供の頃はもっと優しかった気も…しないか、いつだって総司は総司だ。 総「昨日、私はゆきこより近藤さんを優先しました」 歳「あぁ、そうだな」 総「それで考えてみたんです。もし、ゆきこと近藤さん、最後に選ぶのはどっち何だろう…て、」 歳「答えは出たか?」 総「いいえ。全く」 そう。考えれば考える程、答えは全くと言っていい程出て来なかった。 納得のいかない顔をしながら一人考え始めた総司を見て、土方は何とも言えない表情をした。 コイツ…馬鹿か? 子供がそのまま大人になったような総司が、まさかこんな事で悩んでいるなんて… ゆきこのせいか…いや、ゆきこのお陰か… いつの間にか大人になっているもんだな。 歳「総司、お前馬鹿だろ」 総「は?」 歳「なんでんなことで悩んでだよ」 何言ってくんですかあんた?的な目で見てくる総司の頭を軽く叩いた。コイツ…礼儀ってもんを叩き込んでやろうか? いやでも、近藤さんの前では普通なんだよな… .
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