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総「なんでって…」
歳「お前はそんな物分かりの良い奴じゃなかった筈だ。いや、良い奴じゃなかった」
迷わず真顔で言うと総司がピクリと揺れた。
総「馬鹿にしているんですか?」
歳「い、いや…」
今更ながらに自分の失言に気付いたのか、慌てて訂正した。
歳「だってよ…なんでどっちか選ばないといけねぇんだよ」
そう言うと、総司はハッとしたように顔を上げた。まるで、そんなこと言われると思っていなかったかのように…
総「いや…な、なんででしょうか?」
歳「俺に聞くなよ」
総「そうか…」
やっとスッキリとした表情になった総司を見て、土方も煙管をふかした。
総「私はどちらも選べませんから!」
ニッコリと笑って部屋から立ち去った。
全く…
総司は元々、好き嫌いがハッキリしていて、嫌いな奴は嫌い。好きな奴は好き。
まどろっこしいのは大の苦手で、甘いモノと子供と近藤が大好き。
昔から腹黒で、猫を被るのが上手い。どうしたって近藤に適う奴なんか居ない。比べるに値しない存在だった。
だが…
歳「ゆきこ…か」
短時間で総司の心を掴んだ不思議な少女。そいつは儚くて脆くて、小さな身体に背負いきれない重たい過去があった。いつか壊れてしまうんではないかと見守っていた。
まさか吉田達側に居るとは、な。
どこで出逢ったのか分からないが、きっと陽向屋であろう。
ゆきこを守るために陽向屋に行かせたのに、自分達の敵側の味方になるとは…
皮肉だな、と土方は口端を上げた。
歳「…山崎」
静かに呟くと、音も無く山崎が目の前に現れた。
山「どうしたの?」
歳「ゆきこと吉田がどうして出逢ったのか、そしてそれからの接点、出来る限りでいい。全て調べてくれ」
山「…りょーかい」
歳「なんだ、腑に落ちねぇって顔してんな」
山「別にいいけどさ、副長。一つだけ忠告だよ。あんまりあのお嬢さんに構ってると痛い目に合うよ」
珍しく真剣な顔で言ってくる山崎に一応頷いた。心配しなくとも土方は新選組を裏切れない。
もし、本当にゆきこが敵になるというのなら、いくら総司達が止めても殺すだろう。
歳「分かった。頼んだからな」
山「ほいほい…」
それだけ言うと、山崎はまた音も無く姿を消した。
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