―初めての喧嘩―

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その人は、夕餉を食べ終わりみんなで部屋で休んでいる時にやってきた。 襖の向こう側から女将が声を掛けてから入ってきた。後ろには見知らぬ男が一人。 ゆきこは無意識のうちに稔麿の後ろに隠れていた。 稔「あぁ、古高か」 「はい」 稔「何の用?」 稔麿の後ろに隠れて着物をぎゅっと握っているゆきこの手をそっと包み込みながらチラリと古高を見た。 古高 俊太郎 京都河原町四条上ル東で諸藩御用達・枡屋を継ぎ枡屋喜右衛門を名乗る。古道具、馬具を扱いながら早くから宮部鼎蔵らと交流し、有栖川宮家との間をつなぐなど長州間者の大元締として情報活動と武器調達にあたった人物である。後の池田屋事件にも関わる人物だ。 「え?吉田様が今夜来いと…」 稔「そうだっけ?」 晋「さっきお前が文を出したんだろうが」 稔「あぁ…。ゆきこ大丈夫だよ」 おずおずと稔麿の後ろから出て来たゆきこに晋作たちは驚いた。 男が苦手とは聞いていたが、自分たちにはそんな態度は全く出さなかったから、ゆきこが男を苦手という態度を出しているのを初めて見たのだ。 「この女人は…?」 稔「朱里 ゆきこ。今は僕たちと一緒に此処に住んでる」 ゆ「えと、ゆきこです。よろしくお願いします…」 ぺこりとお辞儀して、ゆきこは部屋を出て行ってしまった。 部屋を出たゆきこは詰めていた息を吐き出した。久しぶりの感覚にゆきこは自分でも戸惑っていた。 もう、大丈夫だと思っていた。稔麿にも、晋作にも小五郎にも珀にも、こんな風にはならなかった。 でも、体は覚えていたみたいだ。無意識に体が震えて動かなくなった。 ゆ「はは…情けないなぁ…」 ぎゅっと自分の手を握って目を閉じた。一拍の後、目を開いた。もう体の震えは止まっていた。 そして、お茶を淹れに台所に向かった。 .
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