―刃の重み―

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ゆ「わ、私は殺すつもりなんて、ない…」 思わず、武士から視線を逸らした。腕の震えが止まらない。一度だけ、総司さんが人を斬り殺すところを見たことがある。あの時は、すぐに目隠しされて連れていかれた。 武士は、近くに落ちていた刀を拾って、ゆきこに襲いかかった。 岡「お嬢ちゃんっ!?」 ゆ「え…?」 思わず、自分の刀を振ってしまった。 刀越しに嫌な感触が伝わってきた。頬に生暖かい液体がついて、何か重いモノがぐらりと傾いた。 ゆ「え…?」 頬についている液体を手で拭いて見てみると、アカ。 自分の身体を見てみると所々、赤がついてた。 ゆ「あ、ゃ…うそ、だ…」 ゆきこはそのまま泣き崩れてしまった。 髪を振り乱し、地面を叩き、泣きながら叫び続ける。その叫びは聞いた者の心が軋むような悲しさを含んでいた。 ゆ「いや、いゃ、いやぁぁぁ―――――」 嫌だ。イヤだ、いや、いや、いや、いや、いや、いや、いや、 私が、殺した。この人の命を私が奪った。 真っ赤な液体が目について離れない。 刀を掴んで、ゆきこは何を思ったか、自分の腹あたりに刀の切っ先を向けた。 岡「お、おい!お嬢ちゃん!」 以蔵が叫んでいる声が遠くに聞こえた。 そのまま、刀を持つ手に力を入れて、ゆきこの腹に刺さる。その時、 「ゆきこ」 タラリ…と、刀の刃筋にそって血が垂れてきた。ゆきこはハッとして、刀を手放した。 刀を握っている手を辿って上を見ると、 ゆ「と、し…麿…」 稔「ゆきこ。君は何も見なくていい」 稔麿は、刀を投げ捨ててゆきこを抱き締めた。 はぁ、はぁ、と乱れた呼吸を繰り返しているゆきこを、落ち着かせるようにぎゅっと強く抱き締める。 ゆ「はぁ、は、稔、麿…わた、し…人をっ…」 稔「大丈夫だから、ゆきこ。大丈夫」 ゆ「私に、あの人の、命を奪う資格なんて、無かったのっ…」 稔「きっと、誰にもないんだよ。人の命を奪う資格がある人なんて」 …。それは、数多くの命を奪ってきたモノが言った重たい言葉だった。 そっと、稔麿を見上げると悲しそうな顔で弱々しく微笑んでいた。 .
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