―刃の重み―

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着物をぎゅっと握っているゆきこの首筋に手刀を入れる。…瞬間、ゆきこが顔を上げた。 ゆ「…わた、し、子供じゃ、ないよ…?事実から、逃げたく、ないの…」 涙が流れ続ける目で、真っ直ぐに見つめるゆきこに、思わず手を引っ込めた。 ゆ「…私が、この人を殺したという事実は変わらないから、だから、私は一生この人の命を背負って生きていかなきゃいけないの…」 こんなに真っ直ぐな瞳で見られるのは初めてだ。どこまでも透明で純粋。けれど、どこか悲しげで…この瞳に吸い込まれそうになる。 稔「…そうだね。僕は君みたいな生き方はもうとっくに捨てているから…。君は自分のしたいようにすればいい」 ゆ「…う、んっ」 いつまでも、止まることを知らない涙はヒリヒリと目を痛めている。 乱れている髪をそっと撫でて直していく。 どうして、こんなに脆い子が刀を握っているんだ? 少し傷つけるだけでもヒビが入って崩れていきそうな蝶を、いつまで飛ばせ続ければいいのだろう。 いつか、崩れていく。そう思えてならなかった。そして、それは決して遠くないうちに来るだろうと、稔麿は予感していた。 ゆ「……っ」 苦しい。悲しい。辛い。色んな感情がごちゃごちゃになって涙として落ちて、稔麿の着物に染み込んでいく。 どんなに、泣いたって、人を殺した事実は変わらない。そんなこと分かってる。それでも、涙が止まらない。 ふと、赤いモノが目に入った。それは稔麿の手から流れ出ていた。そうだ…稔麿はゆきこを止めようとして素手で刀を握ったんだ。 ゆ「とっし、麿…手が…」 稔「あぁ…。大丈夫だよ、このくらい…。君を守れたならね」 ゆ「…ご、めんっ…私、どれだけ、迷惑掛ければいいんだろっ…」 稔「君の掛ける迷惑なんて底が知れてるよ…」 こんな傷、そのうち治る。だが、ゆきこの傷はいつ治る?…きっと治ることなんてないのだろう。いつまでも…。 蝶は目的の場に辿り着くまで、いつまでも飛び続ける。傷つき、ボロボロになり、休む間もなく…。だが、目的の地に何があるかは蝶も分からない。それなのに、蝶は飛び続ける。 .
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