―乗り越えて―

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あの後、二人が宿屋に戻ると、晋作達は全て分かっているかのように何も言わなかった。 ゆ「以蔵さん。お願いします!」 岡「絶対に御免だね」 ゆ「お願いします!」 岡「い・や・だ」 先ほどから、ずっとこのやり取りが続いている。ゆきこが何を頼んでいるかって?それは… ゆ「どうしてですか!?いい加減に起きて下さい!もうお昼過ぎです!」 帰ってきてから驚いた。以蔵は昼過ぎになっても起きていなかった。 どんなに説得してもお願いしても、起きようとしない以蔵にもう痺れをきらしているゆきこはむぅ…と、どうしようか悩んでいた。 稔麿達も一応、部屋に居るのだが、もう諦めて二人の様子を見ている。 ゆ「そんなに寝ていたら豚になっちゃいますよ!」 岡「人が豚になるわけねぇだろ。お前はガキか」 ゆ「~~~っいい加減にして下さい!あなたが起きてくれないと布団が干せないんですよ!」 そう言って以蔵がくるまっていた掛布をバッと奪いとった。不意打ちをくらった以蔵は目をパチクリしていた。それを見てゆきこはべーっとして部屋から出て行った。 岡「っんの、俺の布団返せーーー!」 ガバッと起き上がって、以蔵は部屋から出て行った。部屋に残った三人はふぅ…と、ため息をついた。 よし、これで布団を干せる。いつも、いつも、いっつも、のらりくらりと逃げられて、今日久しぶりに以蔵の布団を干すことが出来る。いくら低血圧でも、昼過ぎまでは寝過ぎだ。 綺麗に干せた布団を見て満足げに笑っていると、ガシッと首に腕を回された。 ゆ「いっ!?」 岡「お嬢ちゃーん?」 ゆ「い、以蔵さん!ちょ、く、首!?」 岡「ねみぃじゃねぇかよ。俺が低血圧だって知ってんだろー?」 知ってますとも、よーく知ってます。でも、たまには布団を干さないと臭くなるんです!…と、言えたらどんなに良いか…。死なない程度に圧迫している腕に手を添えてなんとか、離そうと試みる。 ゆ「ぅ…以蔵さん!まだ押し入れに布団はありますから!」 岡「俺は使い慣れている布団がいいんだけどな~?」 ゆ「も、もう、降参です!すいませんでした!」 だんだん苦しくなったゆきこはついに降参した。ニヤリと笑った以蔵にゆきこは気付かなかった。 そして…ゆきこのわき腹に手を伸ばした。 ゆ「!あはははは、やっやめ、ちょ、以蔵さっ…くすぐったっ…あはははっ」 .
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