―乗り越えて―

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やっと手の動きが止まった時は、もうゆきこはグッタリしていた。それを見ている以蔵はかなり満足げに笑っている。 岡「まさか此処まで反応してくれるなんてな」 ゆ「はぁ、はぁ…以蔵さんの、馬鹿」 岡「……どうやら、まだ足りないみてぇだな」 再び手を伸ばしてきそうな笑みを浮かべた以蔵から、ゆきこは慌てて口を塞いだ。 ゆ「す、すいません!もう勘弁して下さい…」 本当にわき腹だけは駄目なのだ。もう二度と以蔵の布団を無理やり干すようなことはしないと固く誓ったゆきこであった。 ゆ「もう…疲れました」 ふらふらと縁側に腰掛けたゆきこの隣に以蔵も腰掛けた。 さっきも思ったが…随分とすっきりした顔をしている。 岡「やっと、すっきりしたみたいだな」 ゆ「…はい。もう、前に進みます」 晴れやかな大陽みたいに笑うゆきこの笑顔が眩しく見える。こんなに綺麗に笑う奴見たことない。 ゆ「以蔵さん、ありがとうございます」 岡「何が?」 ゆ「……やっぱり、何でもないです」 岡「何なんだよ」 いえ…と言って微笑んでいるゆきこを見ていると、気持ちが安らぐ。そっと頭に手を置いてグイッと引き寄せる。 以蔵の肩に頭を乗せる形になっているゆきこは訳の分からないといった顔で見上げてきた。 ゆ「以蔵さん…?」 岡「ちょっと、黙ってろ」 そう言われれば、黙るしかない。柔らかく手触りのいい髪は微かに甘い匂いがする。身体は細く、力を入れればすぐに折れてしまいそうだ。 こんなに小さい身体で背負いきれない大きいモノを背負おうとしている。強がってるだけで、本当は脆いガラス細工のように繊細だ。 髪紐を取って、ふんわりと癖のついている髪を整えるように梳いていく。 そうすると、だんだんゆきこの目はトロトロと閉じていく。 完全にゆきこの目が閉じた頃、ゆっくりとゆきこの身体を倒して、膝の上に頭を乗せた。 あどけない顔で眠っているゆきこは、やはりまだ、幼さが残る少女だ。こんな小さい少女が、人を斬り、新撰組と敵対し、闘う。そんなの、普通の少女だったらありえない筈だ。 ゆきこがどうしてこちら側にいるのかは晋作に聞いたが、やはり納得いかない部分もある。 以蔵にとってゆきこは、妹のように大切な存在になっていた。 その後、ゆきこを膝枕しているのを見られた以蔵は、稔麿達に凄まじい殺気を向けられたという。 .
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