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総司はそのまま、ゆきこに背を向けて歩き自室に戻った。
自室に戻った総司は身体を拭くことも忘れゴチャゴチャした感情に顔を歪めた。何てことをしてしまったんだろうか。
知っていたはずだった。ゆきこが何を一番恐れていたのか、自分が一番誰よりも知っていた。あの子は自分という存在を否定されることを一番怖がる。
「クソッ…」
やり場のない気持ちをぶつけるように文机に拳を振り下ろした。その拍子に筆や文鎮が机から転げ落ちた。
その時、外から雨が降ってくる音が聞こえてきた。
ハッと襖を開けて外を見ると、本降りの雨が降っていた。まさか、まだ外に居るなんて―――頭を掠めた悪い予感に総司は口を抑えた。
体の傷が治ったとはいえ、雨の中にいたら体に影響するに決まっている。
気付いたら、羽織りも着ないで傘も持たずに部屋から飛び出していた。
先程、ゆきこと別れた井戸の近くまでいくと、ゆきこは土砂降りの雨の中、地面に座り込んでいた。近づくと、ゆきこは焦点の合わない虚ろな目で総司を見上げた。
「……そ、じさん」
総司はそっと雨に濡れて冷たくなったゆきこを抱き締めた。そして、ゆきこを抱き上げて自室に戻った。
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