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総司の背に手を回しながらゆきこは静かに言葉を紡いだ。ちゃんと知っていてほしい。決して同情なんかで傍にいるなんて思われたくないから。
「沖田さん…私は本当にあなたのことなんて、何も知りません。でも私がこの一カ月半見ていた沖田さんは、優しくて、温かくて…本当に、信じられると思える人なんです」
そこまで言うと、総司は更に腕の力を強めた。ただ、総司の胸板に顔を埋め、その身体の震えが収まるのを待った。
正直に言ってしまえば、骨が軋むほど強い腕の力に痛いと思わないわけではない。…だが、それは今まで総司が溜め込んでいた痛みだと思う。
暫くして、腕の力が弱まった。
そっと顔を上げて、総司の顔を覗うと弱々しく、でもスッキリした様に微笑んでいた。
「ありがとうございます…」
「いえ…大丈夫ですか?」
「はい。…みっともない所を見せてしまいましたね…」
総司は何時もの様に頭を撫でてくれる。こんな時にまで、優しくしてくれなくてもいい。自分のことだけを考えてくれればいいのに。そう思いゆきこは総司の頭に手を伸ばし、そっと髪を撫でた。
「ッ…!?」
今日くらい、逆でもいいはずだ。一瞬、身体を震わせた総司だったが何も言わずに目を閉じていた。
「着替えましょうか…身体が冷えてしまったでしょう?」
総司はポツリと呟いてゆきこを抱き上げた。総司は器用に片腕でゆきこを抱いて、もう片方の腕でなにかを掴んで部屋から出た。
廊下を歩いているが、もう遅いためシン…としていて、物音一つしない。総司はゆきこを抱き上げているのに足音もたてずに進んでいく。
着いたのは湯殿だった。総司は脱衣所を開けるとそっとゆきこを降ろした。キョトンと見上げるゆきこの濡れた髪を撫でて総司は微笑んだ。
「あの…?」
「この時刻なら誰も入ってないでしょう」
「まさか…って!?」
総司はすでに腰帯を解こうとしていた。ゆきこは急いで顔を両手で覆って後を向いた。後ろで総司が笑っている気配がする。
「沖田さんッ!!」
「クスクス…私は先に入りますよ。着替え置いておきます」
心臓に悪いと、ゆきこは先に入って行った総司を思い溜め息をついた。そして、諦めが肝心だと思い寝間着の腰紐を解いた。
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