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脱衣所の戸を開けると、総司はもう居ないようだった。ゆきこは置いてあった布で体を拭いて、新しい寝間着に腕を通した。
濡れた寝間着と手拭いを持って戸を開けると、横の壁に寄りかかっている総司がいた。
「あ、あれ?部屋に戻ったんじゃ…?」
「暗いので、ゆきこさんが怖がるんじゃないかと思いまして」
「私そこまで子供じゃ…」
「子供じゃ?」
「子供です…」
「クスクス…じゃあ戻りましょうか」
ゆきこと総司は音を立てないように静かに部屋に戻った。部屋に戻ったゆきこは総司の分の布団をひいて、髪を拭き始めた。
総司の長く綺麗な髪を見ていると、自分も髪を伸ばしたくなる。無意識のうちにボーっと総司を見ているゆきこに、総司は振り返った。
「…私に何かついていますか?」
「ほぇ…?あ…違います!ただ…」
「ただ?」
「髪が綺麗だなぁ…って」
ゆきこの言葉に総司はキョトンとしていたが、直ぐに笑顔を向けた。そして手招きをした。ゆきこはその言葉に従って総司に近寄った。
「私の髪は綺麗ですか?」
「はいっ!とっても綺麗です!」
「じゃあ触ってみますか?」
「いいんですか!?」
「はい。その代わり髪を拭いてもらえると嬉しいんですが…」
「もちろんです」
ゆきこは総司から手拭いを受け取り、なるべく丁寧にそっと拭いていく。直に触ってみると本当にサラサラで、絹のような…という形容詞がぴったりだ。
「うわぁ…さらさら…」
「そんなに喜んでもらえるとは予想外ですね」
「だって本当に…羨ましいです」
「そうですか?ゆきこさんも十分だと思うんですが…」
「いえ…私なんか…」
「そんなことないですよ?」
総司はそう言うと、後ろを振り返りゆきこと向かい合わせになった。そして膝立ちになっていたゆきこを座らせて、腕を引かれた。
ゆきこはそのまま、総司の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「おおお沖田さん!?」
「ほら…とっても柔らかくて、綺麗な髪じゃないですか」
総司が喋る度に耳元に微かに息が掛かってくすぐったい。総司はゆっくり、ゆきこの髪を梳いた。
心地よい腕の中で、頭を撫でられると、段々意識が朦朧として総司に寄りかかる形になっていた。
ゆきこそのまま意識を手放した。覚えているのは、腕の中の暖かさと頭を撫でられている心地よさだけだった。
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