―父親の存在―

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門の前で待っていると、何故か通り過ぎる人達から視線を感じた。なにか変なのだろうかと、自分の格好を見るが分からない。はて、と首を傾げていると総司がやって来た。 「お待たせしました」 「あ…」 「ゆきこさん?」 「な、何でもありませんっ!!」 まさか見惚れていたなんて言えず、ゆきこは視線を逸らした。総司は何時もは上で結んでいる髪を横に流して、そして何時もより鮮やかな着物を着ていた。 「行きましょうか?」 「はいっ!!」 町に出ると沢山の人がいた。ゆきこは総司からはぐれないようにするのが精一杯だった。 「大丈夫ですか?」 「は、はい」 立ち止まったのは、あまり人通りが良くない道にある店だった。あんなにも賑やかだとは予想外だった。 総司が店に入るのを見て、ゆきこは慌ててそれに続いた。中に入ると、沢山の刀があった。奥からは少し厳しい顔付きをしたおじさんが出て来た。 「なんだ、総司じゃねえか。また無茶な使い方しやがったのか?」 「失礼なこと言わないで下さい。違いますよ。この子用に刀を買いに来たんです」 「あ?」 「…初めまして。朱里 ゆきこといいます」 「ほぉ…お嬢ちゃん刀を使うのか?」 おずおずと名乗ると、幾分優しい顔付きになったおじさんは感心したように頷いた。 「護身用にですよ」 「そうか。まぁ自由に見な」 「はい。ありがとうございます」 ゆきこはおじさんに言われて刀を見始めた。総司とおじさんはお茶を飲みながら何か話していた。 色々な刀の刃を鞘から出して見たり、重さを感じたり…でも、なかなか決まらない。ふと視線を落とすと少し埃を被っている刀があった。持ち上げて、鞘から刃を出してみると、少し赤みがかった桜色の刃だった。重さも他の刀に比べると少し軽く、しっかりと手に馴染んだ。 「沖田さん、私、この刀にします!!」 「ほぉ…確かにお嬢ちゃんにはそれがいいかもな」 納得したようにゆきことその刀を見比べるおじさんは立ち上がりニッと笑った。 「では、これを下さい」 「あの…お金は?」 「土方さんから預かっていますから。安心して下さい」 「あ…はい」 「お嬢ちゃん。その刀は桜舞ってんだ。よろしく頼むよ」 「はい」 .
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