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広間から出たゆきこは、人気の無い所へと走った。涙が、止まらなかった。最後の最後で、まともな挨拶も出来なかった。
夜は絶対に近寄らない蔵の陰に隠れ、ゆきこは声を押し殺し泣いた。自分勝手なことくらい分かっている。自分には、泣く資格なんてないことを。
もっと、もっと、一緒に居たかった。現代のことなど忘れて、ずっと、この時代にいたいとさえ思った。
だが、
もう、決めた。この優しさに包まれているような場所を捨て、ゆきこは父の元へ戻る。
ゆきこは、総司たちの笑顔を振り払うかのように強く願った。現代に帰りたいと。それが、自らの心に嘘をついているとも気が付かずに。
ずっと、考えていたことがある。自分は、少しでも彼らの役に立てたのだろうか。
ゆきこは、闇に染まった空を見上げた。涙が頬を伝い、落ちた。目を閉じ、深く息を吸った。
総司たちが、ゆきこを探し当てる前に戻らなければ。もう二度と、帰れないとしても。
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