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『愚かな選択をしたな、ゆきこよ』
深い深い意識の底で、声が聞こえた。何故だろう。涙が溢れた。何も、わからない。
―――これで、良かったの―――
『彼処に居たら、お前は幸せに暮らせただろうに…何故、幸せとは程遠い現代を選ぶ?』
―――お父さんが、いるから―――
本当に、そうなのだろうか。ゆきこは、自分自身良くわからなくなった。だが…
『あんな別れ方で、良かったのか?』
―――判らない。でも、あんな…あんな顔させたくなかった―――
ポスッと、暖かい手がゆきこの頭に置かれた気がした。その温もりが、あの人が与えてくれた温もりと似ていた。
『お前に機会をやろう。もう一度、彼奴等を思い出すことが出来たら選ばせてやる』
―――何を…?―――
『もう、休むが良い。何を選ぶかは、お前次第だ。ゆきこよ、幸せになれ』
その言葉と同時に、ゆきこの意識はさらに深く沈んだ。
柔らかい風が頬を撫でる感覚に、ゆきこは重たい目蓋を押し上げた。
見慣れた天井が目に入り、ゆきこはベッドに手を付き起き上がった。まるで、風邪を引いたときのように頭が重い。
随分眠っていたような感覚に、ゆきこは頭を抑えた。何か、忘れている気がする。
今何時だろうと、時計を見ると、大して時間が経っていないことに気が付いた。
「学校、行かないと…」
ベッドから降り、ゆきこは制服に着替え、階段を降りて居間に行き朝ご飯を作った。
父の姿は見えず、ゆきこはホッと安堵の息をつくと、一応父の分の朝ご飯も作り家を出た。
いつも通りの朝な筈なのに、何かが違う。何かを忘れているような気がしてならないのだ。
「ゆきこーー!!」
名前を呼ばれ振り返ると、駆け寄ってくるみきの姿があった。考えていたことが心の奥底に沈み、ゆきこは笑顔を浮かべた。
「おはよう。みき」
「おはよー!!」
二人で学校に行き、部活を始める。何気ない日常がそこにはあった。
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