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いつもなら何も考えずに、唯一真剣に取り組むことの出来る部活にも、ゆきこは集中出来なかった。
「ゆきこ…大丈夫?」
「え?あぁ、うん。平気」
ゆきこは、我に返り素振りをする後輩たちを見つめた。大事な時期なのだから、集中しなければならない。
「無理しないでね?」
「大丈夫だって」
ヒラヒラと手を振りながら、ゆきこは微笑んだ。みきはまだ心配していたが、ゆきこはわざと気付かないふりをした。
「そうだ。ゆきこ、もうそろそろ新しい部長候補を探しておけって言ってた」
「そっか…もうそんな時期なんだ」
いつの間にか、母が亡くなってから随分と時が経ってしまった。ゆきこはコクリと頷き、もう一度後輩たちに視線を戻した。
「後少しで、引退かぁ…早いね」
「そうだね」
ゆきこは、素振りをしている一人の後輩を呼んだ。その後輩は竹刀を下ろし、ゆきこに駆け寄った。
「何ですか?」
「私たちさ、もう少しで引退だから…新しい部長候補、見つけないといけないんだ」
「そう、ですね」
「考えておいてくれないかな?私は部長候補として君を推す」
「へっ!?」
突然の宣言に、その後輩は目に見えて狼狽え、ゆきこはそんな後輩を見てケラケラと笑った。
「みんなー!!構えっ!!蹲踞、納め。これで部活終わります。みんなお疲れ様」
ゆきこの前に後輩たちが整列して、朝練が終了した。だがその時、ゆきこは突然頭が痛くなった。
「ゆきこ?どうしたの?」
「私…保健室行ってから、教室行く…先生に言っておいて…?」
「う、うん。わかった」
みきの心配そうな声を聞きながら、ゆきこは頭を抑えながら保健室に急いだ。
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