1416人が本棚に入れています
本棚に追加
とりあえず、あの夢に出て来た人たちのことを思い出したかった。だが、思い出そうとすればするほど、頭の奥が痛んだ。
「っ…」
「ほら、無理すんな」
傾きかけた身体を素早く支え、空雅は悩むような素振りを見せゆきこの青白い顔を覗き込んだ。
「空雅さん…?」
「家には帰れねぇよな…もう暫く、此処で寝てろ。星野には一応言っておいた」
「…本当に、ありがとうございます」
頭を下げたゆきこに、空雅は拳を作り、それをゆきこの頭に落とした。一瞬、目の前に星が散った。
「いっ!?な、何するんですかぁ…」
「お前なぁ…一々気ぃ遣わなくていいんだよ。前そう言ったよな?」
「で、でも…」
空雅の企業は、裏の仕事もやっている。空雅も、流石にゆきこを巻き込むわけにはいかないと思っているようで、そっちの話しは余りしない。
「放課後になるまで寝てろよ?」
「はい」
「俺はちょっと用事があるから暫く戻って来れねぇから、しっかり寝てろよ?」
優しい笑みを浮かべた後、ゆきこに背を向けて保健室から出ようとする空雅の背中を見て、ゆきこは口を開いた。
「空雅さん」
「なんだ?」
「もし…もし、私がこの時代から姿を消したら、どうしますか?」
自分でも、何故こんなことを聞いているのか分からない。だが、空雅は一瞬悩むような素振りを見せ、ニッと笑った。
「ずっと待っててやるよ。お前が、帰ってきたいと思って、俺を呼べば迎えに行ってやる」
ゆきこはその言葉を聞き、嬉しそうに微笑んだ。今度こそ保健室を出て行った空雅の後ろ姿を見送り、ゆきこはポスッとベッドに倒れた。
「……何を、忘れてるの…?」
小さな呟きは誰にも届くことなく消えた。思い出さなければいけない。ゆきこは何故かそう思った。
.
最初のコメントを投稿しよう!