―現代―

5/8
前へ
/592ページ
次へ
とりあえず、あの夢に出て来た人たちのことを思い出したかった。だが、思い出そうとすればするほど、頭の奥が痛んだ。 「っ…」 「ほら、無理すんな」 傾きかけた身体を素早く支え、空雅は悩むような素振りを見せゆきこの青白い顔を覗き込んだ。 「空雅さん…?」 「家には帰れねぇよな…もう暫く、此処で寝てろ。星野には一応言っておいた」 「…本当に、ありがとうございます」 頭を下げたゆきこに、空雅は拳を作り、それをゆきこの頭に落とした。一瞬、目の前に星が散った。 「いっ!?な、何するんですかぁ…」 「お前なぁ…一々気ぃ遣わなくていいんだよ。前そう言ったよな?」 「で、でも…」 空雅の企業は、裏の仕事もやっている。空雅も、流石にゆきこを巻き込むわけにはいかないと思っているようで、そっちの話しは余りしない。 「放課後になるまで寝てろよ?」 「はい」 「俺はちょっと用事があるから暫く戻って来れねぇから、しっかり寝てろよ?」 優しい笑みを浮かべた後、ゆきこに背を向けて保健室から出ようとする空雅の背中を見て、ゆきこは口を開いた。 「空雅さん」 「なんだ?」 「もし…もし、私がこの時代から姿を消したら、どうしますか?」 自分でも、何故こんなことを聞いているのか分からない。だが、空雅は一瞬悩むような素振りを見せ、ニッと笑った。 「ずっと待っててやるよ。お前が、帰ってきたいと思って、俺を呼べば迎えに行ってやる」 ゆきこはその言葉を聞き、嬉しそうに微笑んだ。今度こそ保健室を出て行った空雅の後ろ姿を見送り、ゆきこはポスッとベッドに倒れた。 「……何を、忘れてるの…?」 小さな呟きは誰にも届くことなく消えた。思い出さなければいけない。ゆきこは何故かそう思った。 .
/592ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1416人が本棚に入れています
本棚に追加