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家に帰り、ゆきこはすぐに着替えベッドに倒れ込んだ。枕に顔を埋め、頭の痛みを無視して思い出すことに集中した。
ズキンズキンと痛む頭を抑え、頭に響く声を頼りに、全てを思い出したいと願った。
ふと、目を開けベッドね真横にある机に見覚えのない物を見つけた。震える手を伸ばし、それを掴んだ。
「腕輪…?こんな、の…持ってた?」
不思議と、それをつけると頭の痛みが少し引いたように思う。腕輪に手を添え、ゆきこは涙を流した。
―――ゆきこさん―――
「っ…誰?誰なの…」
声が響く度に、頭痛が酷くなる。腕輪をつけ、痛みが収まったのも一瞬で、余りの痛さにゆきこは小さく呻いた。
そして、痛みが一度酷くなった時、頭の奥で瑠璃皿を叩きつけたような、澄んだ音が響いた。
頭の中に、沢山の記憶が流れ込んでくる。たった一ヶ月で沢山の思い出が出来た。
どうして、忘れていたんだろう。
『やっと思い出したか』
―――あなたは?―――
『それは、知らなくていいことだ』
一度聴いたことのある声だ。頭に直接響く声が、何故かとても優しさを感じた。手を、動かしたような気がするが、何も触れられなかった。
―――でも、思い出したところで、私はもう何も出来ない―――
『言ったであろう。もう一度機会をやるとな。選べゆきこ。お前は記憶を取り戻した上でどちらの時代を選ぶ?』
―――私はあの人達を傷つけてしまった。もう、戻ることなど許されていない―――
必死に止めてくれた。あんなに優しくしてくれた。なのに、ゆきこは理由も説明せずに勝手に戻ってきてしまった。今更戻るなど、自分勝手にもほどがある。
『私は、お前の意志を聞いている。行きたいか、このままこの時代に残るか、お前はどうしたい?」
―――私の、意志―――
『この時代に残り親しい者達と過ごし、父の存在に怯えながら一生を終えるか、あの激動の時代で次々と死に逝く大切な者達と共に最後の瞬間まで生きるか…」
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