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長い長い沈黙があった。その時間、ゆきこは色々なことを考えた。今、ゆきこがいるこの時代は、辛いことも最悪なことも沢山あった。だが、楽しいことが一つも無かったわけではない。
ゆきこを必要としてくれている人たちもいる。その人たちを置いて、あの時代に行くか。
―――もう一度、行かせて下さい―――
『そうか。よくぞ決めた。その答えを出すのを待っていた』
我が意を得たり。というような声にゆきこは覚悟を決めた。たった一ヶ月半程しか一緒に過ごせなかった。だが、それでもあの人たちはゆきこの大切な大切な存在となった。
『お前が行きたいと願う時代は、全ての物が移り変わろうとする時代だ。想像も出来ないような苦痛や、別れが多くある。それでも選ぶんだな』
―――はい―――
迷いは無かった。例え、拒絶されたとしても、傍にいよう。彼らを支えたい。出来るかは判らないが、やれるだけやってみよう。
『ならば、行くがよい』
トン…と、背中を押された気がした。この声の主が誰なのか、ゆきこは判らなかった。
―――ありがとうございます―――
『行ってこい』
意識が遠のいていく中でゆきこはもう一度感謝の言葉を口にした。誰かに、名前を呼ばれた気がした。
ゆきこに語りかけていた声の主は、ゆきこの意識がこの世界から消えていくのを感じ、笑みを浮かべた。
『これからが始まりだ。ゆきこよ、後ろだけは振り返るではないぞ』
その最後の声が、ゆきこに届いたかは判らないが、それでも声の主は満足だった。
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