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頬を撫でる風に誘われるように目蓋を押し上げると、一番最初に目に入ったものに一気に靄が掛った思考が晴れた。
「…ぁ、え…?」
喉が引き攣ったように声が上手く出ない。心の奥底から込み上げてくるこの思いは、恐怖。
ゆきこが現れた場所は、全く知らない場所。だが、辺りにはビル一つなく、人々の喧騒も聞こえない。戻ってこれたと思うには情報不足ではあるが、それでもゆきこは信じることにした。
全く知らない場所でも、ゆきこは普段こんなにも怯えたりはしない。何がそんなにゆきこを怖がらせるか―――それは闇。
恐怖を振り払うかのように歩き始めたゆきこは、どこへ行っていいか分からないが、何かに引き寄せられるように足を速めた。
暫く走っていると、民家らしき建物が並んでいる通りに出ることが出来た。だが、ゆきこは一度しか町に来たことはない。その時は総司の後ろを着いて行くのが精一杯だった。
怖い。怖い。怖い。誰でもいい。誰か―――
「沖田さんっ…」
思い出してしまう。あの日の傷が開いてしまう。闇が、心を覆ってしまう前に、誰か。
「おいっ!!お前、こんな夜更けに何をしているっ!?」
「いやっ!!」
後ろから響いてくる複数の声にゆきこは身を震わせた。もっと良く見ていたら、それが新撰組の隊士達だと気付けたかもしれなかった。
だが、混乱しているゆきこは振り返らずに背を向けて走り出していた。
「あれは…まさか、でも…私が追いかけます。皆さんは先に戻っていてください」
ゆきこが捜し求めていたその人は、見覚えのある小さな後姿を追いかけた。僅かな期待を胸に抱いて。
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