―過去の傷跡―

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ゆきこは頭の中を廻る記憶を振り払うかのように走り続けていた。早く新撰組に行かないといけないと判っている。だが、身体が言うことを利かない。 「怖いっ…」 「止まってください!!」 嗤い声が聞こえる。思い出すことなど、無かったのに。どうして今になって。心の奥底に沈めて、記憶から消しておこうと決め手いたのに。 「助けてっ…」 「ゆきこさんっ!!」 グイッと腕を捕まれ、ゆきこは動きを止めさせられた。だが、その瞬間ゆきこの心は闇に覆われた。目の前が真っ暗になり、身体から力が抜けた。 「いや…いや、いや…」 「…ゆきこさん?」 やっとゆきこと会えた喜びよりも、様子のおかしいゆきこに目を見張った。身体は小刻みに震え、総司を見ているようで、ゆきこは何か違うものを見ていた。 「た、すけて…沖田、さん…」 「私は此処にいますよ?」 「お願い…」 混乱しているとわかるゆきこの様子に、流石の総司も戸惑った。ゆきこは、何に怯えているのだろう。 「大丈夫ですよ…私は傍にいます」 「離して…触らないで…」 あの日のことがなければ、きっと、こんなにも男を怖いと思うことも無かった。やっと、忘れられたと思っていたのに。ギュッと、落ち着かせるようとゆきこを包み込んだ総司だが、ゆきこは離れようと暴れだした。 「ちょ、ゆきこさんっ…」 「離してっ…沖田さん、助けて!!」 「私は此処ですッ!!」 ピタッと動きを止めたゆきこは、やっと総司を見た。ポロリと、ゆきこの瞳から涙が零れた。 「沖田さ、ん…?」 「大丈夫ですか?」 「お、きたさんっ…沖田さんっ!!」 ゆきこは総司に縋り付くように総司の身体に腕を回した。やっと、悪夢から抜け出すことが出来た。 「良かった…」 「ごめんなさい、ごめんなさい沖田さんッ!!勝手にいなくなってごめんなさい…」 闇に覆われていた心が、総司の温もりによって晴らされていく。会いたかった。この人に会いたかった。 .
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