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涙で濡れた瞳が、総司を写した。これは、うれし涙だと捉えても良いのだろうか。頬を流れる涙が零れて、総司の着物に染みを作った。
「…嬉しい、です…」
「それはなによりです」
きっと雪斗は、もしもの時総司が近藤を選んだとしても、いつも通り傍にいる気がする。
総司の言動一つ一つに左右され、絶対の信頼と忠誠を捧げた少女。そして、雪斗はどんな障害からも守るだけの力をその手に握っている。
「もう、後には引けませんよ?」
「大丈夫です。私は、あなたの隣を歩きたい。守られるだけでも、後ろでもなく、あなたの隣に…」
着物の隙間から見える、首筋に咲いた、華がやけに目についた。自らの命を削り、この新撰組を守る力。
「あなたを…新撰組に縛り付けたくはないのですが…どうしても、ですか?」
「はい」
「その手を、血で染められますか?」
命を奪う権利など、誰にもない。一人一人が、限られた時間のなかで、もがき、苦しみながら生きている。
沢山の命を、沢山の人の人生と未来を奪ったことのある総司だからこそ、決して嘘や甘いことは言わない。そんなことをすれが、雪斗が苦しむだけだ。
「もちろんです。あなた方のためなら」
「大切な人を人殺しの言い訳にしてはいけません」
きっと、殺さなければ、もっと沢山のことを見て、訊いて、感じることが出来たはずだ。その無限の未来を、奪う。その何と罪深きことか。
「…私は、私のために人を斬ります」
本来ならば、こんなことはいわせたくはない。だが、此処で下手に大丈夫とでも言えば、いつか苦しむのは、総司ではなく雪斗なのだ。
そして、人を殺すという罪と命の重さに耐えるのは雪斗だ。その時、いくら慰めて、抱き締めたとしても、最後は雪斗の心の強さにかかっている。
死、についてひどく敏感で、かつて目の前で友を亡くした。それは、今でも雪斗の心に大きな傷として残っている。
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