―過去の傷跡―

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その日は、やけに暑かった。 ゆきこは、休みの日はあまり部屋からは出ない。それは、父が家にいてもいなくても変わらないことだった。 夏になってもゆきこは薄着を着られない。痣が見えてしまうからだ。白い肌に出来た青紫色の痣は身体全体に出来ている。 特にやることも無いので、ゴロンとベットに寝転び、本を読んでいた。そう、いつも通りの普通の日が過ぎていくと思っていた。 ガチャ ドアが開く大きな音に、ゆきこは身体を強張らせた。どうやら、父が帰ってきたようだ。しかし、いつもより帰りが早い。普段、父が帰ってくるのは深夜だ。 「…お父さん…?」 第六感とでもいえばいいのだろうか。嫌な予感がする。今は父に会いたくない。何かが、壊れてしまう、最後の最後まで信じてきた何かが。 だが、確認しなければならないと思い、ゆきこはベットから起き上がり震える足で立ち上がり、力の入らない手でドアノブに手を掛けた。 一段一段ゆっくり階段を降りていくと、何か物音が聞こえてくる。どうやら父は一人ではないらしい。ならば、誰といる?そう考えた時、ゆきこは聞こえてくる声に身体から力が抜けた。 「…っぁ…ひ、ぁ…」 それは間違いなく女の喘ぎ声。 ゆきこは階段を降り、居間に広がる光景に、信じていた最後の欠片が壊れていく音が聞こえた。 「お父さん…?」 「あ?んだよゆきこか…」 「なに、してるの?」 「見て分からねぇか?」 乱れた服に絡まる二つの身体。ゆきこは目の前が暗闇に覆われていくような感覚に乱れた呼吸を繰り返した。 「ねぇ…誰?」 「娘だよ」 「死んじゃった奥さんのー?」 頭がクラクラする。これは夢だろうか。ゆきこは必死に目を逸らさないように手を握り締めた。 「何で?お父さんは、お母さんのこと好きなんだよね?まだ、好きでいるよね?」 「は?死んだ女なんかに興味ねぇよ」 涙が溢れた。信じていた、狂ったしまった父でも、きっとまだ母のことを愛しているのだと。そう思えていたからこそ、父の暴力にも耐えていことが出来ていたのに。 .
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