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総司は、広間を出てから一度も口を開かなかった。そのピリピリとした雰囲気に、ゆきこは総司に話しかけることが出来なかった。
それは総司の部屋に入っても変わらなかった。ゆきこは我慢出来ずに総司に向き直った。もう一つだけ、云わなければならないことがあるからだ。
「沖田さん」
「……」
目も合わせてくれない総司に、ゆきこは身体を震わせた。もしかして、こんな穢れた自分とは、話しもしたくないのだろうか。ゆきこはもう一度震える声で名を呼んだ。
「沖田さん…」
「……」
心が痛い。どうすればいいのだろうか。この人に嫌われたら、自分は今度こそ闇に呑み込まれてしまう。ゆきこは顔を俯かせ目を瞑った。
「穢れている私と、話すのは、嫌、ですか?」
涙が零れるのを必死で我慢して手を強く握った。苦しい。そうだ、こんな自分では、受け入れてもらえるはずがなかった。勝手に期待していただけ。
「……」
「っ…何か言ってくださいよ…私と話したくないなら、出て行きますからっ…」
限界だった。これ以上は我慢できない。ポロリと涙が零れた。堰を切ったように涙があふれ出た。声だけは漏らさないように、手で口を覆った。
「…私は、あなたのために何も出来ません…」
え?と、顔を上げると悔しそうな困っているような表情を浮かべている総司と目が合った。総司の手が伸びて、ゆきこを包み込んだ。
「お、きたさん…?」
「あなたと話すことが嫌?そんなわけないじゃないですか。やっと、帰ってきてくれたんですよ…?どれだけ待っていたと思っているんですか?」
「だ、だって…」
「誤解させてしまいましたね。すみません」
その優しい微笑みにゆきこは肩の力を抜いた。良く知っている香りにゆきこは総司の顔を見上げた。
「まだ、はなしてないことが、あって…最後の、無理やりされて…その後…」
思い出すと呼吸が乱れる。だが、全てを話さなければいけない。全てを知っても、傍に居てもいいのか決めてもらいたい。
「ゆきこさん。辛いなら話さなくても…」
「いいえ。訊いてください。沖田さんには、話さないと駄目なんです…」
「分かりました…」
深く息を吸い、ゆきこは覚悟を決めた。震える手を強く握り、声が震えてしまわないように総司の着物を握った。
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