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「あの後…私は、まわされたんです。知らない男達に…何度も、何度も…気を失って、気付いたら、知らない場所に捨てられていて…身体中、に痕が残ってて…本当に、死のうって、思いました…」
今度こそ言葉を無くした。何も言えず、総司はゆきこを強く抱き締めた。抱き締めることしか出来なかった。ゆきこは、総司の温もりを感じるように胸元に顔を埋めた。
「大丈夫。あなたを傷つけた方々は此処にはいません。此処に居る限り、絶対あなたを悲しませたりしません」
総司はそう言って、ゆきこの髪を撫でた。初めて出会ったとき、何故あんなにゆきこが怯えていたのか、やっと理解出来た。
「…こわ…かった…話してる途中…なんどもッ…なんども…あいつらの顔が…蘇って、きて…」
総司はもう片方の手で背中を落ち着かせるようにさすった。だが、ゆきこは涙が止まらなかった。みきにも、みきの両親にも、空雅さんにもこんなに泣いたことなんて無かった。
こんなに優しくて、暖かい空間にいるのは初めてだった。
「大丈夫です。此処には私とゆきこさん。あなたしかいませんから」
ゆきこの肩はまだ小刻みに震えていた。微かに声が聞こえてくる。ゆきこは自分の口を両手で塞いで声が漏れないように必死で我慢していた。
総司はゆきこの顔をそっと上げさせた。ゆきこの顔は涙で濡れていて目は真っ赤だった。
「声を我慢しなくてもいいですよ」
そう言って総司はゆきこの手を口から退けた。するとゆきこの目からはさらに涙が溢れ出した。そして、自分から腕を総司の首にまわして、抱き付いて肩口に顔を埋めた。
「お…きた…さん…」
「はい?」
「あ、りがと…ござ、います」
ゆきこは顔を上げて総司の目を真っすぐ見つめて言った。
「御礼なら後でゆっくり聞いて上げますから。今は思いっきり泣いて下さい」
「は、いッ」
そう言ってゆきこはまた顔を埋めて、この優しい空間に甘えることにした。
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