―温もり―

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暫くしてゆきこは泣き止んだ。泣き続けたせいか、目は真っ赤になって声は少しかすれていた。総司は心配そうにゆきこの顔を覗き込んだ。 「大丈夫ですか?」 「はい…すいません…着物…」 総司の着物はゆきこが泣いていた部分が濡れていた。そこを見た総司は別に対したことでもないように微笑んだ。 「大丈夫ですよ。それより、湯浴みに行ってきなさい」 「え?…でもこの時間じゃあ…」 確かにこの時間は隊士達や幹部達が入っている。そのため、ゆきこは菊と最後に入っている。ゆきこは困ったように総司を見た。 「大丈夫ですよ。お菊さんに言ってみなさい」 「?…分かりました」 ゆきこはよく分からない顔をしていたが、総司に背を押され寝間着を持って部屋から出ていった。 とりあえず菊の部屋の前に来たゆきこは襖越しに声を掛けた。すると、目の前の襖が開いた。 「ゆきこちゃんどうしたの?あら。目が真っ赤よ。大丈夫?」 「はい。あの…沖田さんに湯殿に行きたいなら菊姉の所に行きなさいと言われたので…」 「そういうことね…いいわよ。おいで」 「あ、はい」 納得したように頷いた菊は一度部屋に戻ると寝間着を持って、ゆきこと共に湯殿に向かった。脱衣場の前で止まると、中からは騒がしい声が聞こえてくる。この状況でどうやって入るのだろうか。 「いい、ゆきこちゃん?少しだけ目をつぶっていてね?絶対なにがあっても私がいいよって言うまで目をつぶっていてね」 「え?はい。わかりました」 言われた通りに目を閉じると、菊が笑った気配が伝わってきた。そして、菊は思いっきり息を吸った。 「ゆきこちゃーん、一緒に入りましょーー」 するとさっきまで散々うるさかった戸の向こうがシーン…と静まり返った。そして一拍の沈黙の後、ガタガタと音がして戸がガラッと開いた。そして次から次へと隊士達が着物を軽く引っ掛けただけの姿で出て来た。 ゆきこは菊の言葉に目を開け不思議そうに首を捻っていたが、菊はニヤリと黒い笑顔を見せた。隊士が全員居なくなったのを見て、菊はゆきこに声を掛けた。 「さっ入りましょ!」 ゆ「なんで急に居なくなっちゃったんですか?」 「気にしない、気にしない!」 そうしてゆきこは菊と総司の作戦でのんびり入れたのだった。 .
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