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一枚一枚、洗っては干してを繰り返して、暫くしてやっと全ての洗濯物が干し終わった。
ゆきこはそれを見て満足げに微笑んで、桶を片付けに行った。
台所に戻る途中、ゆきこは知らない隊士に声を掛けられた。と言っても、ゆきこが隊士を知らないのも無理はない。
総司達が裏で睨みを効かせているため、ゆきこに手を出そうという勇者は居ない。そのためゆきこは殆どの隊士と余り関わりがない。
「何でしょうか?」
尋ねると、隊士は顔を赤くした。普通ならそこで何が起こるのか大体は察するのだが、普通じゃないのがゆきこだった。
「おっ俺と、つっ付き合って下さい!!」
「いいですよ」
何の躊躇いなく頷いたゆきこに、隊士は一瞬ポカンとしたが、次いでゆきこに見えないようにガッツポーズをした。
よっしゃぁぁ!!
え?俺、沖田組長に勝ったわけ?あの、沖田組長に!?やべー!!
浮かれに浮かれまくっている隊士に、ゆきこから残酷な、一気に地へ突き落とすような言葉が発せられた。
「どこにですか?」
「え?」
「どこに付き合えばいいのですか?」
哀れ隊士。ゆきこは超がつくほどの鈍感。総司がどれだけこの鈍感に悩まされているか、この隊士は知らなかったようだ。
隊士がもう一度、言おうとした。が、ゆきこの後ろに男でも惚れ惚れとするような妖艶な微笑みを浮かべた総司が現れた。
ゆきこは後ろを振り返って、パッと顔を明るくさせた。総司は、へこんでいる隊士を無視してゆきこの髪を撫でた。
「何を話していたのですか?」
「隊士の方が付き合って欲しい所があるらしいです」
そう言うと、総司は隊士を見た。隊士はその視線に固まった。ゆきこには決して見せない微笑みに隊士は、決して手を出してはいけない人に手を出したのだと悟った。
「総司さん?」
「何でもないですよ。それより、もう戻りましょう昼餉の用意は出来ていますよ」
「でも…隊士の方が…ってあれ?」
ゆきこが振り返るとそこには、隊士の姿は無かった。総司はそれに、ゆきこから顔を背けて微笑んだ。
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