―癒えない傷―

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昼餉も食べ終わり、ゆきこも総司も部屋で休んでいた。 「今日は私、夜に巡察があるので、先に寝ていていいですよ」 「…了解です。気をつけて下さいね?」 ゆきこは不安そうに総司を見上げた。総司はそんなゆきこを見て、安心させるように笑った。 「大丈夫ですよ」 「でも…やっぱり心配で…」 総司より強い輩など滅多にいないと分かってはいるが、やはり不安でならない。 「大丈夫ですから」 そう言って、総司はゆきこの髪を撫でた。 夕餉も食べ終わり、菊とゆきこが片付けていると、今度は違う隊士に声を掛けられた。ゆきこは菊に顔を向けて頷いたのを確認してから隊士について行ったのだった。 屯所でも人通りの少ない所まで来て、隊士は足を止めた。この隊士も、先程の隊士同様に顔を赤くさせていた。 「あ、あの…お、俺…」 「はい?」 「ゆきこさんが好きです!!」 この隊士は先程の隊士の話しを聞いて、好きと直接言うことにしたのだ。それに丁度、総司は仕事で居ない。 それには流石にゆきこも気付いたようだ。ゆきこは少し俯いた。 「すいません…無理です…」 そう言うと、ゆきこは隊士に抱き締められた。隊士は行動で表して気持ちを伝えようとしたのだが、ゆきこには逆効果だった。 体が震える。目の前がチカチカする。ゆきこは思いっきり隊士を突き飛ばして走り去った。 記憶の奥底に沈めておいた記憶が再び呼び覚まされる。耳の近くで、聞こえる筈のない笑い声が聞こえてくる。 無我夢中で走っていると、誰かにぶつかって倒れ込みそうになった所で、誰かに腕を引かれてなんとか倒れずにすんだ。 そして、聞き慣れた声で名前を呼ばれた。 「ゆきこ…?」 だが、その声は笑い声によってかき消された。ゆきこは掴まれた腕を払ってまた、走ろうとした。 「いやぁっ!!」 「ゆきこ!?」 「ヤッ…」 総司はゆきこの異変に気付き、ゆきこの顔を覗き込んだ。その表情を見た総司は息を呑んだ。 ゆきこは総司を見ているようで、何も見ていない。瞳からは涙が溢れ、体は震えていた。こんな反応をしたのは初めて会った時以来、初めてかもしれない。 「…」 無言でゆきこを引き寄せてキツく抱き締めた。ゆきこは離れようと暴れたが、男と女の力の差で、総司はゆきこを離そうとしなかった。 .
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