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「ゆきこッ!!」
声を大きくして、どうにかゆきこの心を落ち着かせようとしたが、ゆきこは身体を震わせ、暴れる力を強くしただけだった。
いくら暴れても解放されなかった手、どんなに抵抗しても動かない身体。封じ込んでいた記憶が、次々と鮮明に蘇る。
「ぁ…ああ…離し、て…」
ゆきこは、涙をポロポロと流しながら必死に抵抗している。総司はそんなゆきこに一度、目を閉じてから首筋に手刀を入れた。
意識を失ったゆきこはそのまま、総司に倒れ込んだ。頬には涙の跡が残っていて目尻には涙が溜まっていた。それを、そっと拭いてからゆきこを抱き上げた。
部屋に戻ってきた総司はゆきこを布団に横たえた。立ち上がろうとしたとき、着物の裾が引かれていた。
視線を落とすとゆきこの手がしっかりと着物の裾を掴んでいた。
「ゆきこ…」
呼び掛けるとゆきこがピクリと反応した。そして、目を見開いたと思ったらいきなり飛び起きた。
「ゆきこ…?」
総司はゆきこの肩に触れようとした。が、
パシッ
初めて会った日、ゆきこに払われた手。あの時と同じ、でもあの時よりも悲しみも喪失感も大きい。
「…ゆきこ?」
「…っ、そ、うじ…さん…」
呼び掛けると、ゆきこはハッ…と、我に返ったように総司を見つめた。そして、そのまま抱きついた。
総司はバランスを取れずにそのまま倒れ込んだ。ゆきこが震えていることに気付いた総司はそっと背中をさすった。総司を写していなかった瞳が、やっと総司を写した。
「大丈夫ですか…?」
「…総司さんっ…総司さん…」
「ゆきこ。私は此処にいます」
全身を包み込む温もりに、ゆきこは乱れた呼吸を整え始めていた。だが、着物を握る力は未だ強く、身体は震えていた。
「何があったのか話せますか?」
ゆきこは震えながらもコクリと頷いた。着物を握っている手の力が一層強くなった気がした。
「…総司さんが、お仕事に、行ってから…隊士の人に呼び出されて…告白、されたんです…」
総司は、その言葉に内心舌打ちした。あれだけ睨みを効かせていたから大丈夫だと思っていたのに。
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