―癒えない傷―

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「…お断りしたら…抱き締められたんです…そしたら、目の前が真っ暗になって、あの男達の声が聞こえてきて…あの時の記憶が、感覚が、全部蘇ってきて…怖くて、あの時と同じ、で…」 涙が次々と頬を伝い、総司の着物に染みを作った。落ち着かせるように、背中をさすると、ゆきこは、総司の胸板にそっと頭を預けた。 「大丈夫ですよ…あなたを傷つけた人達も、此処には何もありません。此処にあなたを傷つけるものは何もありません。大丈夫です私があなたを守ります」 「…ありがとう、ございます」 この少女は私が守る。そのためなら私は何だって出来る。どうして少女が、こんなに傷つかないといけない。 此処にいるからなのだろうか。此処にいるからゆきこはこんなに傷つくのだろうか。 総司はゆきこを無意識に強く抱き締めていた。ゆきこはこの居心地の良い空間に、暖かさに身を委ねていた。 「……ゆきこ」 「はい」 「あなたは、必ず幸せになれますよ」 「え?」 どういう意味かと、顔を上げると総司は困ったように微笑んでいた。そして、そっと髪を撫でた。 「何でもありません。ただの戯言だと思って下さい」 首を傾げて総司を見つめても、もう何も言ってはくれなかった。総司は自分の胸元にゆきこの顔を寄りかからせた。 「もう寝なさい」 「……で、も」 「疲れたでしょう。ゆっくり休みなさい」 静かな声と、髪を撫でている暖かい大好きな手と、この暖かい落ち着く空間にゆきこの目蓋は閉じていった。 .
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