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土方の問い掛けに総司は言葉を詰まらせた。それは一番考えたくないものだった。
自分の傍から離れて、他の男の隣で笑う姿を見て耐えられる自信がない。だが、此処から出て行くということは、もう二度と総司と関わらない可能性があるかもしれない。
それでも、彼女が幸せになれるなら。
「痛い所つきますねぇ……正直、耐えられる自信なんてないですね」
困ったように、寂しそうに笑った総司の痛々しい姿に土方は顔を歪めた。
「なんであなたがそんな顔するんですか」
「お前は、ゆきこのことが好きか?」
「はい。好きですよ」
総司は迷うことなく返事をした。ずっと前から気付いていた気持ち。言葉にするとストンと心に落ちてきた。
「たまに見せる寂しげな瞳。消えてしまいそうな背中。すがりつくように掴んでくる手…全部、守ってあげたいんです。幸せにしてあげたいんです」
「それでもか…?ゆきこが他の「いいんです」…総司」
総司は土方の言葉を遮り、いいんです。と繰り返した。土方はそれ以上何も言えなかった。
ずっと昔から総司が小さい時から弟のように一緒にいた。
近藤を慕い、近藤のために剣をふるい、人を斬り殺した。
だから、ゆきこが居なくなった時の総司を見たときは少なからず驚いた。
「わりぃ…お前の方が辛い筈なのに…」
「いえ…では、私はこれで…」
総司は一礼してから部屋を出て行った。
土方は頭を抱えてから、はぁー…と溜め息をついてから、筆を手に取った。
そしてゆきこは一日、目を覚まさなかった。次の日、土方の元に一通の文が届いた。
その日の夜、土方は届いた文を手に、複雑な心境のまま近藤の元を訪れた。
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