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一は総司から顔を背けた。昔からそうだ。いつも笑顔でいるくせに、たまにそれが仮面だったかのような表情を見せる。他人とはある程度で線をひいて決してそれ以上近寄ろうとしない。
ずっと、昔から変わらない。初めて会ったときから、強いくせにどこか怯えていた。
「…昔から変わらないんだな」
「え?」
「なんでもない」
だが、ゆきこが来てから総司は変わった。近藤のためだけを考えていた総司が、他人のゆきこを心の中に住まわせるようになっていた。そこまで考えて、一は心に渦巻く不愉快な感情に気がついた。そして、
バシッ
「ッ!?」
気付いたら総司の頭を殴っていた。殴られた総司はいきなりのことについていけず、頭をおさえていた。一方殴った本人も何故、自分が殴ったのか分からなかった。
「え、は、一君!?」
「いや…悪い。なんか…苛ついた」
「え?え?」
一は気まずそうに顔を逸らし、総司は本気で悩んでいた。いつもは冷静沈着で無口な斎藤が、こんなことをするのを見たのは初めてかもしれない。そんな微妙な空気に耐えられなくなったのか、一は立ち上がった。
「考え事もほどほどにしておけよ」
「はい。ありがとうございました」
総司も立ち上がり。一を見送ってから自室に戻っていったのだった。
総司と別れた一は壁に腕を組んで寄りかかっていた。総司は大切な友だ。言えるわけがない。なぜ、本心を教えてくれないのか。と思って苛ついて殴ってしまったのかなんて。深い溜め息をついて、一は額を手でおさえた。
すると、ポンと肩を叩かれた。考えすぎて気配を気付かなかった一は刀に手を置いた。
「はっ一君!俺だよ、平助!」
振り返ると、平助が手を上げて焦っていた。一は刀から手を離すと平助はホッとして笑った。
「なにしてんの?こんな夜更けに…冷えるよ?」
さっき自分が言っていた事と同じことを言われて一は目を瞬いてからフッ…と笑った。
「?…まぁいいや!それよりさ、一緒に酒呑まない?」
「…たまにはいいかもな」
「一君が一緒に呑んでくれんなんて珍しいね!左之さん達も喜ぶよ!」
平助は一の肩に手を置いて喜んだ。一は呆気にとられていたが、平助と一緒に左之達が待つ部屋に向かった。
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