―癒えない傷―

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朝餉の時間はいつもより静かに終わった。ゆきこは食べ終わった膳などを片付けようとしたとき、総司が真剣な表情を浮かべながらゆきこの前に現れた。 「ゆきこ」 「あ、総司さん。どうしましたか?」 「片付けは後でいいですから少し、来てもらえますか?」 頷くと、総司はその小さな手を引き広間を出た。その時にはもう広間に幹部達は居なかった。 手を引かれ、つれて行かれた部屋の障子を開けると幹部達が深刻な表情で集まっていた。 「座りなさい」 いつになく真剣な表情をした近藤に、ゆきこは総司に中心に座るように言われ中心に座った。ゆきこの周りは幹部達が取り囲むように座っている。 「ゆきこ」 「はい」 「………新選組から離れてくれ」 その言葉をすぐに理解することが出来なかった。理解した瞬間、頭の中が真っ白になった。 「ど、して…ですか?」 「理由は言わねぇ。ゆきこには陽向屋という所で働いて欲しい」 此処から離れて、他の所に行く。そんなの…嫌だ…でも、この人達に出て行って欲しいと言われるなら…そう考えた時、優しく抱き締められた。 顔に冷たい水が落ちてくる。顔を上げると近藤が泣いていた。そして、豆で堅くなったゴツゴツとした手でそっと撫でられた。 「す、まない…だが、分かってくれ。儂らは皆、ゆきこが嫌いなわけじゃない…皆ゆきこが大好きだ」 その言葉に涙が溢れた。それを見た近藤はゆきこを強く抱き締めた。ただ、近藤は力加減が分からないためゆきこが潰れてしまいそうだった。 ゆきこが喘ぐように声を出したとき、近藤から離されて優しく抱きとめられた。 「私…ゆきこちゃんのこと本当に妹のように思ってるから…何かあったらすぐに呼んでね…駆けつけるから…」 優しい言葉と温もりに涙は止まることを知らなかった。菊の腕が離れると今度は土方に抱き締められた。 「何かあったら、すぐに来い。いつでも待ってるから…」 「…ッ土方さん…」 土方の腕から離れると、今度は新八たちに抱き締められた。三人に抱き締められると苦しかったが、それでも居心地の良い空間だった。 .
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