―癒えない傷―

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総司は、意識を失ったゆきこを抱きかかえた。頬には涙の後が痛々しく残っている。 近「みんな、もういいか?」 皆はまだ少し納得のいかない表情をしていたが、渋々頷いた。 近藤は無言で総司を見た。総司も軽く頷いた。 近「では、総司。ゆきこを陽向屋に連れていきなさい。トシ、お前も着いていけ」 歳「ああ」 最後に皆がゆきこの髪を撫でてから二人は部屋を出た。 広間の障子が閉まった瞬間、菊は泣き崩れ、近藤も拳を畳に打ち付けた。山南も手を真っ白になる程に握りしめていた。新八も、左之も平助も一も皆、ゆきこが居なくなることに悲しんだ。 ゆきこには来いと言ったが、そんなに来れるわけがない。来たら、ゆきこを此処から出した意味がなくなってしまう。 屯所から出た二人は無言で歩いていた。流石に抱きかかえて行くわけにはいかないので、おんぶしている。 大通りの陽向屋に着くと、二人は裏口に回った。すると、其処には一人の女性と、ゆきこより少し年上位の少女がいた。 歳「菖蒲」 菖「この子がゆきこちゃんですね。空、部屋の準備は出来てる?」 空と呼ばれた少女は頷いた。それを見た菖蒲は「準備は出来ています」と頭を下げた。 歳「こいつは俺たちの大事な妹だからな。よろしく頼む」 菖「承知しました。さて、沖田君」 総「はい?」 菖「私じゃ、ゆきこちゃんを運べないから部屋まで運んでくれる?」 そう言って菖蒲はパチンッ…と片目を閉じた。総司はそれを見て、驚いたように目を瞬いてから頷いたのだった。 歳「じゃあ俺は先に戻るから」 総「はい」 土方はゆきこの髪を軽く撫でてから去っていった。総司達は土方を見送ってから、菖蒲は総司を案内した。 部屋まで来ると、菖蒲は何か感じたのかすぐに部屋から出て行った。 総司はそっとゆきこの髪を撫でた。 こんなに儚くて、寂しげで、消えそうな少女を初めて見た。こんなに愛しい気持ちを初めて感じた。 総「ゆきこ…好きですよ」 そう言ってから、総司はゆきこに顔を近づけて額に口づけた。自分の思いが伝わりますようにと… 総司は離れると、微笑んでから部屋を出た。階段を降りると菖蒲が振り返った。此処は、甘味処のため店全体に甘い匂いが漂っている。 総「では、私はこれで…ゆきこをお願いします」 菖「ええ、任せて」 菖蒲の言葉に総司は安心そうに頷いてから店から出て行った。 .
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