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すると、部屋に二人程入ってきた。
ゆきこは思わず布団を握り締めた。
総司はそれに気付き、二人には見えない様にそっとゆきこの手を包み込んだ。
ゆきこはビクッとしたものの、手の力を弱めた。
「おい、大丈夫か?」
「土方さん、そんな眉間に皺を寄せたまま話すと、ゆきこさんが怖がってしまいますよ」
「ゆきこ?」
「はい。この子の名前です」
「…朱里 ゆきこといいます」
布団に身体を横にしながら言うのは失礼かとは思ったが、今は身体に力も入れられなかった。
「ほぉ。男子なのに女人の様な名前だ…」
「男子…!?」
「ぷっ…あはははは」
「近藤さん…」
「え?な、なにか失礼なことを言ったか?」
「あの…私、女です」
ゆきこの一言に近藤は固まった。だが、ゆきこも少なからず落ち込んだ。
確かに、剣道するときは長い髪は邪魔だからと思って、肩までにしているが…未だに肩を震わしている総司を見た。総司はゆきこの視線に気付いて、声を震わせながら「すいません」と言った。
「近藤さん、流石にそれは失礼ですよ」
「い…いや…すまん」
「大丈夫ですよゆきこさん。あなたは普通に女人に見えますから」
「さっきまで、肩震わせて笑った人に言われたくありません…」
少しふてくされたように顔を背けるゆきこに総司は肩を震わせながら謝罪の言葉を口にした。
「ふはっ!!…すいません」
「別に大丈夫ですよ」
「さて、ゆきことか言ったな。てめぇ、何者だ」
「何者って…人間です」
「ッ…ふざけるなよ…」
ゆきこの答えに納得がいかないかのように眉間に皺を寄せた土方をゆきこは静かに見つめた。
「ふざけてなんかいません」
「まぁまぁ二人共」
「ところでゆきこ。行く宛はあるのか?」
「ありません」
ゆきこがキッパリ言うと、部屋が一瞬静まり返った。そんな空気にゆきこは首を傾げていた。
「親はどうした?親戚とか…」
「母親は五年前に死にました。父親は…。親戚は音信不通です」
「…ならば、此処に住むか?」
父親のような慈愛に満ちた声で近藤はゆきこに提案した。総司も同意するように頷いた。
「駄目だ」
「土方さん!?」
「俺達がこいつの面倒見る義理はねぇよ」
土方の言葉に、近藤と総司が声を上げた。
「なッ!?歳、見損なったぞ!?」
「そうですよ!!人でなしですかあなた!?だから鬼の副長とか言われるんですよッ!?」
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