―陽向屋―

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ゆ「本当にありがとうございました」 ゆきこは頭を下げて笑った。次の日の早朝、ゆきこは戻ることになった。それは本人の希望だった。 近「また、遊びに来なさい」 門の前には、近藤、土方、山南、総司、一、三馬鹿、菊が揃っていた。 隊士達には、ゆきこは実家に帰ったということにしている。 歳「また無理すんじゃねぇぞ?」 ゆ「はい」 ゆきこは苦笑いで土方に頷いた。その後も他の人から沢山の言葉を掛けて貰った。 大好きな人達。居場所をくれた、優しい人達。人斬り集団と恐れられているなんて、想像出来ない。こんなに、優しい人達なのに。 まるで、優しさに包まれているような心地よい空間。 ゆ「では、私はこれで…」 総「待って下さい。送っていきます」 もう一度頭を下げて、背を向けて歩き出そうとした時、総司に腕を掴まれた。 断ろうとしたが、「また、何かあったら困りますから」そう言われて、断れなくなった。 総「ほら、行きますよ」 総司はゆきこに歩調を合わせてゆっくり歩き始めた。 二人が町を歩いていると、ある三人の浪士が横を通り過ぎた。総司は三人が通り過ぎた後、後ろを振り返って立ち止まった。 ゆ「総司さん?」 総「あの三人…」 いきなり立ち止まった総司にゆきこ不思議そうに見つめた。総司は眉間に皺を寄せて腕を組んだ。 ゆ「今、通り過ぎた三人ですか?」 総「はい。あの話し方は…」 ゆ「長州のなまりが入っていましたね」 そう言うと、総司は驚いた表情でゆきこを見た。ゆきこはさっきの三人組の後ろ姿を見つめた。 ゆ「ああいう話し方をする人達なら、最近増えていますよ?」 総「それは…何時くらいからですか?」 ゆ「えと…私が陽向屋に行った時には、まだ極わずかでしたが居ましたよ」 陽向屋は甘味処。ゆきこは長州のなまりなど分からなかったが、京の人達とどこか話し方が違うと思い菖蒲に聞いたところ、長州の話し方だと分かった。 総「そうですか…ありがとうございます。たまに教えて貰っていいですか?」 ゆ「はい。あなた達のお役に立てるなら…」 .
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