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ゆ「なんて話したんですか?」
総「クス…秘密です」
総司は少し困ったような顔をした店主と顔を見合わせて笑った。一方のゆきこは頬を膨らませてむくれていた。
むくれているゆきこに気づいた総司はゆきこの手に握らなれていた簪に視線を移した。
総「何故、つけていないのですか?」
ゆ「あ、…私、髪を結うのは苦手で…」
ゆきこは気まずそうに顔を伏せると、総司は苦笑いでゆきこの髪をポンと叩いた。
総「すいませんが、奥の部屋をお借りしてもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
総司はゆきこの手を握って、奥の部屋に向かった。ゆきこは恥ずかしくて顔を上げられなかった。
そんな初々しい二人の様子を店主は暖かく見守っていた。
奥の部屋に移動した二人。総司はゆきこの手を離して、鏡の前に座らせた。そして、ゆきこから簪を受け取り櫛を取り出してそっと、髪をとかし始めた
ゆ「総司さん。なんで出来るんですか…?」
総「ほら、動かないで下さい」
ゆきこが後ろを向こうとしたが、しっかり釘をさされた。ゆきこは前を向いて、鏡越しに自分の髪が結われていくのを見ていた。
この時代に来たときは肩までだった髪は、胸辺りまで伸びていた。それだけの月日が経っていた。
いつもは上で一つに結んでいた髪が、剣士とは思えないような細くて長い、少しゴツゴツした指が綺麗に、どこから取り出したのか、飾玉がついた髪紐で結っていく。
最後に簪をさして、総司は顔を上げた。肩に手を置いて、鏡越しでゆきこと目を合わせてニッコリと微笑んだ。
総「完成です」
ゆ「うわぁ…総司さん凄い…」
頭を動かすと髪紐が髪に合わせてふわりと揺れる。ゆっくり後ろを振り向くと、総司は髪が崩れないようにそっと髪を撫でた。ゆきこは猫のように目を細めてすり寄った。
総「駄目ですよ。髪が崩れてしまいますから」
そう言われて、ゆきこは少し不満そうに離れた。
ゆきこの髪が揺れる度に甘い匂いが鼻を掠める。決して香水のようにキツい匂いではなく、ほのかに香る花のような匂い。
総「行きましょうか」
そう言って立ち上がり総司は先程のように手を差し出した。ゆきこはその手に掴まり、立ち上がった。
部屋から出ると、店主が振り返った。そして、優しい笑顔で笑った。
「よく似合っていますよ。折角なのでお化粧もしますか?肌が白いのできっと化粧がはえますよ?」
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