―出陣命令―

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音が聞こえてきた方に歩いていくと、井戸にたどり着いた。だが、そこにはいると思っていた人物は居なかった。 ゆ「良かった…」 気のせいで本当に良かった。はぁ…と、詰めていた息を吐き出して井戸の淵に手を着いた。 そこで、違和感に気づいた。濡れているのだ。手を見ると確かに濡れていた。 おかしかった。今、隊士達はほとんど出動している、平助はゆきこの部屋で寝ている。山南さんは部屋からほとんど出ない。総司だって汗をかくようなことをしていないだろうから、井戸が濡れているなんておかしい。 ゆきこは濡れている手を良く見て目を見開いた。これは水じゃない。これは…血?誰の? ゆ「…総司、さん」 違う、きっと違う。そう思いたかった。思いたいのに…。ふらふらと、力の入らない身体でゆきこは総司を探そうと歩き出した。 探すと言っても行く場所は決まっていた。お願い、総司さんじゃありませんように…と願いながら襖に手を掛けた。 「げほっ、くっ…げほッ」 手から力が抜けた。一番聞きたくなかった。気づけば襖を開けて中に入ってすぐに襖を閉めて身体を曲げて咳き込んでいる総司に抱きついた。 総「…ゆ、きこ?」 ゆ「……一人で、溜め込まないで下さい…」 ぎゅっと、総司を抱きしめた。総司はいきなり入ってきたゆきこに目を見開いて口を押さえていた手でゆきこの肩を掴んだ。 総「どうして、分かった?」 敬語が消えた総司の顔を見ていると涙が溢れた。きっと、いつもこんな風に、ヒトリで…。 ゆ「どうして、頼ってくれないんですか、どうしたら、泣かないでくれますか?」 こんなこと言っても、総司さんを困らせるだけだと知っている。でも、これ以上見ていたくなかった。誰かに頼られても頼れないこの人の表情を、寂しそうな背中を見ていられなくなった。 自分の弱いところを見られるのが嫌いなこの人は、いつも一人で全てを片付けようとする。そんなこと無理に決まっているのに。 総「ゆきこ…」 総司は無言で強くゆきこを抱きしめた。骨が軋むかっていうくらい強く抱きしめられた。でも、ゆきこにはそれが総司が我慢してきた痛みだと思った。 ゆ「総司さんっ…傍にいますから…私は此処に、あなたの隣に居ますから」 .
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