導入

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 ある二つの出会いのエピソードを挙げてみよう。  01/  私立大学には合格したものの、第一志望の大学を諦めきれず、浪人を決意した女の子がいた。その子は、ちょっとした事情を抱えており、それの克服も、浪人中にしたいとねがっていた。  その浪人生活第一歩というか初日、予備校主催の学力診断テストがあった。その日、彼女は筆記用具と受験票を忘れてきており、席にも座れず、座れたとしてもテストの解答はできない。  周りは知らない人しかおらず、それに、みんな参考書を開いており話しかけずらかったこともある。  なにより、彼女の生来の性格が災いして、本当に困っていたのだ。  危うく泣きそうになった寸前、彼女に一人の男性が話しかけてきた。 「あのー、どうかしましたか?」 「あ……うぁ……その、じゅ……」  ちゃんと話したいのに、うまく口がまわらない。そのことがとても歯がゆい。これじゃまた、高校の時のように……。  最悪の記憶が脳裏をよぎり、彼女は口を動かすが、漏れる音は相手には伝わらない。こんな自分が、彼女は大嫌いだった。  涙を流すのだけはこらえる。彼も上手く喋らない自分に憤慨(ふんがい)し席に戻っただろう。と、彼女が帰ろうと決めた時、 「あ、もしかして受験票忘れたとか、筆記用具忘れたとかですか?」
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